- ホーム
- > 和書
- > 文芸
- > 海外文学
- > その他ヨーロッパ文学
内容説明
いかがわしい占い師に「『墓地の書』を書きあげる」と告げられ、「雨が降ったから」作家になった語り手が、社会主義体制解体前後のスロヴァキア社会とそこに暮らす人々の姿を『墓地の書』という小説に描く。
著者等紹介
木村英明[キムラヒデアキ]
1958年生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。早稲田大学文学研究科博士課程を経て、ブラチスラヴァのコメンスキー大学哲学部に留学。現在、早稲田大学などで教鞭をとるほか、世界史研究所研究員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
あたびー
37
社会主義崩壊後のチェコスロバキア。コマールノという町で暮らすちょっと障碍があるサムコ・ターレは、占いをしてもらったら「墓地の書を書け」と出てしまったので、書くことに。丁度仕事に使うダンボール集め用の荷車のバックミラーが壊れたので修理に出し、その間作家になるのだ。真面目さのせいで差別主義的な考え方に囚われているが、周りの人を観察し記憶する能力は優れていると見えて、次から次へと町の噂が登場する。過渡期の混乱の中の国情も垣間見える。繰り返される表現もリズムがあってよろしい。2024/10/01
藤月はな(灯れ松明の火)
37
ソ連崩壊後のスロヴァキア。共産党の思想を無邪気に受け止めてきたサムコ・ターレスは占いの予言のように『墓地の書』を書き始める。時が止まってしまったかのような彼は段ボールを交換してもらい、時々、車を曳く繰り返される生活を送っている。繰り返されるフレーズと同性愛者やジプシーへの差別が彼から発せられることで私は不快になり、同時に「障碍者=無垢」という自分勝手なイメージを押し付けていたことに気付いた。そうなると語り部は全く、信用ならないことになる。作者と同名の語り部によって展開される薄気味悪い視点に惑乱。2013/09/07
三柴ゆよし
27
古紙回収人の主人公サムコ・ターレが、占い師の老人に託宣された『墓地の書』なる本を執筆するという構成の小説で、本当の作者はもちろん別にいる。社会主義崩壊&チェコスロヴァキア解体前後のグロテスクな日常が黒い笑い混じりに語られるが、語り手の性質的に、現実と虚構の支点がどこにあるのかが上手く掴めず、なにしろ不気味でいやな感じだった。他者の言葉の裏がまるで読めないサムコ・ターレは、嘘偽りのない、真正直な人間であるがゆえに、むしろおそろしく歪んでいるともいえて、この自閉的な語りが気に入るかどうかで評価が分かれそうだ。2012/06/05
りつこ
22
最初はユーモラスに思えた語りが徐々に薄気味悪く感じてくる。言葉の裏や人の行動の真意を読めないサムコは、家族さえも密告し自分は正しいことをしていると疑わない。ゾッとするほどの差別意識を全く無自覚に表しているのが、差別される側の人間という皮肉。何度も繰り返される自慢話にこちらの神経がやられそう。なんとも言えず嫌な後味だった。2012/09/02
em
17
外側から見れば社会主義の食い物にされている彼は、満ち足りている。こういうのは難しい。善悪や"かわいそう"が揺るがされ、責める対象を見失うから。模範解答はあるけれど、それは飾り言葉の羅列と化す。表紙の怪物はおそらく”他者から見た”主人公であって、その他者には読者もふくまれる。かくして私は、常に素通りし、あるいは故意に目隠しをしてきたことに気づかされる。「罪なき者まず石を投げよ」とはよく言ったもので、石を投げる者に罪なき者などいない。そして罪なき者は、石など投げない。2018/01/12




