内容説明
世紀末は動く…かりにこのように表現してみても、この言葉は、どこか奇矯な感じを免れないであろう。それは当然である。世紀末とは、なによりもまず特定の場所の、特定の時期を、つまり西欧の19世紀末を指していう言葉だからであり、それは客体のような動くものを指していう言葉ではないからである。しかし、この方向感覚の喪失こそが逆説的に「世紀末」のもっとも大きな特質となる。というのは、本来ならばネガティヴな状態を指すこの「方向感覚の喪失」が、新たな転換のポジティヴな契機をつくりだすからである。従来の西欧を支えた目的論的世界観はもはや再生されえない。それは確かであろう。だがこの「転換」は西欧という環境と歴史の境域をこえて世界に拡がってゆく。拡散と集中との新たな発生形態が可能となる。そこに「世紀末」の決定的な意味が見てとれるのである。
目次
第1章 思想―生への復帰
第2章 美術―原始の生
第3章 文学―デカダンスと生の変奏
第4章 文化―生の逸説と予兆