内容説明
舞台は赤嶺島での自治会長選挙。生きる意味を見失った主人公和真(軍用地主)が、島の人々に翻弄されながら故郷亀岩の精へと…。選挙戦、政治とカネ、聖なるものと俗なるもの等複雑に絡む世界がシンプルかつ滑稽に描き出される。
著者等紹介
又吉栄喜[マタヨシエイキ]
1947年沖縄県・浦添村(現浦添市)生まれ。琉球大学法文学部史学科卒業。1975年「海は蒼く」で新沖縄文学賞佳作。1976年「カーニバル闘牛大会」で琉球新報短篇小説賞受賞。1977年「ジョージが射殺した猪」で九州芸術祭文学賞最優秀賞受賞。1980年「ギンネム屋敷」ですばる文学賞受賞。1996年「豚の報い」で第114回芥川賞受賞。南日本文学賞、琉球新報短篇小説賞、新沖縄文学賞、九州芸術祭文学賞などの選考委員を務める(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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MIYA
1
芥川賞作「豚の報い」と同様、読後の煙に巻かれたような白昼夢感は健在。幻想と現実の間に引かれた線の上をゆらゆらと進むような物語。又吉氏にとって主題は実は"沖縄"ではなく、沖縄という地に息づく"何か"を探しているのだろうと思う。"原風景"という思想には共感を覚える。"どこへ行くのか"ではなく、人は"どこから来たのか"。まだ存在しない未来よりも、存在したにも関わらず忘却され、何の記憶も残さず消え去った過去の方が、人を惑わすのかもしれない。又吉氏の"原風景"である亀岩が、この小説を書かせたのだろうと思う。2022/10/21
せかいのはじめ
1
架空の島「赤嶺島」を舞台に軍用地主で働く必要のない青年が、村の自治会長選挙に立候補する、、、という話。本来的な自然破壊反対に目覚める和真だけど、自治会長などという虚職ができるのも、そもそも自然破壊の大元になっている米軍の軍用地料のおかげというねじれ。ただ、短編だから仕方ないけど、実際に沖縄の実情はもっと複雑。ボスや咲子にも、もっとねじれていて根深い事情がでてくるはず。ねじれにねじれた事情が、沖縄の風景なのだろうけど、このサイズの物語では、その香りがわずかに嗅ぎ取れるのみ。2022/02/10