内容説明
コンラッドを「べらぼうな人種差別主義者」と断罪した作家アチェベの1975年の発言は、果たしてそれほど不当なものだったのか?ナチスのユダヤ人抹殺に先立つ30余年ほど前に起こった、ベルギー国王レオポルド二世による「コンゴ自由国」での黒人虐殺・収奪の痛ましい悲劇を中心にすえながら、黒人奴隷貿易の歴史、レオポルドの悪行と隠蔽に抗して立ち上がった先駆者たちの多彩なプロフィール、アチェベ、ハナ・アーレント、サイードなどのコンラッド論、『闇の奥』をモチーフにしたコッポラの映画「地獄の黙示録」をめぐるエピソードなど、豊富なトピックをまじえながら、ポストコロニアル時代のいま、改めて、「白人の重荷」という神話、西欧植民地・帝国主義の本質を摘出する。
目次
1 『地獄の黙示録』と『闇の奥』
2 ベルギー国王・レオポルド二世
3 コンゴ自由国―ゴムと大虐殺
4 レオポルド二世打倒
5 オリーブ・シュライナー
6 『闇の奥』の奥に何が見えるか
著者等紹介
藤永茂[フジナガシゲル]
1926年満州国長春生まれ。九州大学理学部物理学科卒。1968年からカナダのアルバータ大学教授、現在同名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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榊原 香織
80
過激で面白い。”闇の奥”新訳した人。なぜ物理学者が、と不思議だったが、舞台のコンゴ、ウランの産地。 レオポルドⅡ世支配下の大量虐殺を糾弾。 リョサの”ケルト人の夢”読んだばかりなので、コンラッドはケースメントを見捨てた奴、という幾分悪いイメージだった。2024/07/04
harass
69
「闇の奥」を読む前にと手に取る。ベルギー国王レオボルド二世の「私有地」だったコンゴの歴史を中心に、欧米帝国主義列強による収奪システムの系譜を論ずる。現在まで続くシステムを見抜くには過去の悲惨な歴史を掘り起こすしかない。コンゴの「私有地」での数百万規模の虐殺と収奪は40年後にナチス・ドイツによって繰り返される。どちらも狂気を伴ってではなく、恐ろしいまでに合理的に。このコンゴを非難する英国自体もボーア戦争を仕掛けるというこの面の皮の厚さ。時代の制約といえばそうなのだが、いろいろ考えさせられる内容だ。2017/04/08
syaori
50
コンラッドの『闇の奥』を導入に、欧米列強のアフリカ侵略の「罪業」について言及する本。探検家の事績や彼らをモデルにした本などを読むたびに感じていたことをこの本は明確な言葉で突きつけてきます。つまり、彼らが目指す未踏の地は無人の地ではなく、太古の昔からそこで「笑い、喜び、悲しみ、生きていた」人々がいたのだということを。欧米諸国がそこに侵入し、先住民に課してきた恐るべき「重荷」や、資源の問題と絡んで現在も動きを止めない「『ヨーロッパ』というシステム」について、自分はもっと知ることが必要なのだろうなと感じました。2018/05/06
zirou1984
50
アフリカの作家アチェベは『闇の奥』を執筆したコンラッドを「べらぼうな人種差別主義者」と批判したが、なぜそこまで言わなければならなかったのか?本書は執筆当時の実情について明らかにし、ベルギー国王レオポルド2世の統治下における悲惨な実情について告発する。コンゴは当時植民地ですらなく、国王の私領であった為に植民地支配を推し進めていた列強諸国からも批判されていたという構造は皮肉としか言いようがない。地獄の黙示録に出てくる、手首を切り落とされた人々の話は当時のコンゴで実際に行われていたというのはおぞましい事実だ。2015/03/20
ころこ
28
サッカーベルギー代表のコンパニやルカクなど、アフリカに起源をもつ選手のほとんどがコンゴとの二重国籍です。その背景には見過ごせない歴史があるということが、本書には書かれています。名作『地獄の黙示録』は、コンラッド『闇の奥』を下敷きにしたのは周知の事実ですが、映画に強いインスピレーションを与えたのは、『闇の奥』の舞台で行われたとされる「切り落とされた腕の山」の話だったとされています。1885年から20年間に、ベルギー王国レオポルド2世は、コンゴで大量虐殺を行いました。ゴム原料の採集に白人指揮下の黒人隊が女、子2018/05/29