内容説明
戦争の深い爪跡を心に残す一人の老人と、盲目の旧友が紡いだたぐいない人生。一管の笙(しょう)を軸に、生かし、生かされてある人間の絆を静謐に描く、感動の熟年文学誕生。
著者等紹介
東野光生[トウノコウセイ]
本名・山本太郎。昭和21年、和歌山県生まれ。水墨画家。作家。絵画の代表作品として、『涅槃図』(全龍寺蔵)、『大日如来図』(高野山遍照光院蔵)、障壁画『臨照図』(善光寺蔵)など。著書に、長編小説『似顔絵』(平成十二年度芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞)などがある
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感想・レビュー
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カツ
3
妙に盛り上げるでもなく淡々と話が進んでいく感じが良く、読んでいて穏やかな気持ちになっていった。最後に補陀落渡海の船出をするが亡き友の手紙によって生かされる。つまりは、補陀落に辿り着いて再生したという事か。人は自分だけでなく自分以外の誰かによって生かされているのだなと考えさせられる。読後じわじわと心に沁みてくる良本でした。2022/01/21
藤枝梅安
3
友人の遺骨を海に撒き、自らもそのまま海の藻屑になればいい、そう考えてい主人公が、友人の最後の手紙に生きる力を与られる。二人の友情と、それを見守る周囲の人々。二人とも東大を卒業したところまではともかく、戦後は厳しい生活をしてきたはず。そんな二人のささやかな生活は、「幸福」とはなにか、を考えさせらてくれる。大きな事件も気の利いたエピソードもないが、じわじわと胸に迫ってくる秀作。2009/06/27
Keiko Ota
1
うちの親のルーツの和歌山南の小さな村出身の作者、そして補陀落渡海に関すると思われる題名、ということでゆっくり休日に読もうと取っておいていて、旅行先で読みました。 何か書くとネタバレになりそうだからうまく語れないけど、戦争中の罪と傷をずっと忘れられず、慎ましく暮らす主人公とその友人、美しい生き方に、そしてラストシーンに胸を打たれました。2018/10/21