内容説明
地球の“水”が、三つの多国籍企業に支配されようとしている。スエズ社(仏)、ヴィヴェンディ社(仏)、テームズ・ウォーター社(独・英)―これらのグローバル水企業(ウォーター・バロン)は、新自由主義による民営化政策のもとで、世界銀行や国際金融機関に後押しされ、各国の政府や政治家と癒着し、巨大な利益をあげながら、15年以内に、世界の水道の75%近くを、手中に収めるだろうと言われている。本書は、これまで明らかにされなかった、その恐るべき実態を、世界各国のジャーナリストの協力によって、初めて徹底暴露することに成功した、衝撃の一冊である。
目次
第1章 水と権力―フレンチ・コネクション
第2章 南アフリカ―死をもたらすプリペイド・メーター
第3章 ブエノスアイレス―民営化でひと儲け
第4章 マニラ―「現世利益」が残した禍根
第5章 スハルト政権末期の政治と水―インドネシア
第6章 二都物語―コロンビア
第7章 米国市場に喰い込む「巨大水企業」
第8章 手ごわい市場―カナダ
第9章 オーストラリアの悪臭騒動
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
超運河 良
15
政府や自治体が民営化を行うのは、売却による利益で自らの債務や赤字を削減して財政の潤沢化する。これは、水道事業自体の財政ニーズと対立する。なぜなら、民間企業が委託を獲得するために支払う金額は、その企業が見込んでいる収益流列に依存し、さらにそれは利用者に課す料金に左右されることになり、規制などの諸条件がいかに寛大であるかによっても影響される。政府の財政にとって良いことが必ずしも水の利用者にとって最善にはならない。水道運営のノウハウを保有し一度民営化で獲得すると自治体にはノウハウがなくなり永久独占ビジネスになる2015/11/02
coolflat
5
俗にウォーターバロンと呼ばれる民間企業は、世界銀行と密接な関係にある。途上国に対し、世界銀行は民営化と自由市場経済の政策の一環として、これらの国々の政治指導者らに対して、電気・ガス・水道などの部門を商業化するように勧告してきた。これら水企業の激しいロビイングと世界銀行の勧告が、途上国に水道事業の民営化を受け入れさせる圧力となったわけである。ところでこれら水企業は殆ど自己資金を投入せず、世界銀行の融資によって水道網の改修や拡大を行ってきた。にも関わらず、利益が上がらないとみるや、事業から撤退するわけである。2014/04/27
tellme0112
2
ICIJ国際調査ジャーナリスト協会という団体を初めて知る。公共事業の民営化について考えた。指定管理者制度や民間委託のことを思いながら読んだ。入札の時だけ様々な条件を飲んだ上でこの金額でやるといい、決まってしまえば交渉次第…どこかで聞いたことがあるような。日本のことにも最後少しだけふれている2014/06/27
k2jp
2
役人から仕事を取り上げ民営化するだけで低コストな代替サービスが実現すると楽観的に考えている人に勧めたい本。地域独占となる水道事業を民営化した結果、支払い能力のない貧困層は盗人扱いされ、維持管理する現場労働者は削減され、結果として起こる不衛生な事故。開き直り値上げで焼け太り。値上げできなければ契約期間を残して撤退する。民営化直前に不自然な値上げを行い、民営化後に相殺値下げして「民営化で安くなった」とするトリックなど…衛生を金儲けの手段として弄ぶ多国籍企業を信じたがために被った被害事例がよく取材できている2012/12/06
taming_sfc
1
副題にグローバル水企業(ウォーターバロン)の恐るべき実態とあるように、世銀・IMF体制で1990年代に推進された途上国における公営部門の民営化要求とセットになって世界各国で大きく業績を伸ばしたグローバル水企業の負の側面を、多くの事例を描写することで、説得的に読者に伝えようとする著作。南アフリカ、アルゼンチン、フィリピン、インドネシア、コロンビア、アメリカ、カナダ、豪州における水道事業民営化の負の側面が詳述される。水問題の関心のある大学生は、まずは本書を読まれるとよいでしょう。2011/12/22