写らなかった戦後〈2〉菊次郎の海

写らなかった戦後〈2〉菊次郎の海

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  • サイズ B6判/ページ数 399p/高さ 20cm
  • 商品コード 9784877982621
  • NDC分類 916
  • Cコード C0036

出版社内容情報

戸内の漁師の子は激動の昭和をカメラに捉えその名を知らしめた。その後表舞台から降り、無人島で生きた彼は再び写真の世界に舞い戻った。時代の変遷と流浪の旅路を描く。

はじめに

1 無人島を探して
大水無瀬島へ
立島、東京からの世捨て人
片山島との出会い、この島で死のうと決めた

2 家族との別れ
父子家庭の二〇年
一家離散

3 片山との出会い、井戸を掘る
終の住処
ドンキホーテ号との出会い
井戸を掘る――穴のなかの一カ月
チェーンソーとの葛藤――耳が聞こえなくなった
ついに水は出なかった

4 家を建てた、棟上げは「誅裕仁」
紗英さんが来た
棟上げは「誅裕仁」
有機農法は厄介だった
二度目の井戸掘り
山羊が天敵になった

5 島で生きる
遭難、嵐のなかの二人
無人島生活、魚の四季
孤島の「ピカドン展」
警察が来た

6 さらば、片山島
沖家室島の葬送
腕が動かなくなった
故郷との決別
自殺未遂、ロクと片山島との別れ

7 ふるさとの海
婆ちゃんと暮らした少年時代
ふるさとの海
難破船、海の村の生と死
蛸と普賢市
メジロを飼う

8 海辺の村
紗英さんが「内妻」にされた
蜜柑畑の四季、バイクを買う
自給自足の生活
鳥、虫、花、村社会との出会い
アナが来た
祝島漁民、反原発真展、『ヒロシマの嘘』出版
アジアのなかの日本――拉致問題への提言

あとがき

はじめに
 「もうこんな国も人間社会もご免被りたい」
 そう言って一人の報道写真家が瀬戸内海の無人島で自給自足の生活を始めようとしている。福島菊次郎さん(六二歳)。
 東京で二十数年間日本のジャーナリズムのなかで生き、月刊総合雑誌のグラビアを中心に年間一五〇頁以上を発表し一世を風靡したカメラマンだった。彼にはこれまで一〇冊の写真集がある。政治、軍事、反体制運動、公害、戦後風俗など取材対象もさまざまだ。とくに戦後四〇年間続けた原爆取材で、彼を「原爆作家」と呼ぶ人もある。
 しかし、戦後四〇年の間に雑誌も右傾化してマスコミは彼の写真を必要としなくなった。夢中になってシャッターを切っているうちに気がついたら時代に取り残されていた彼はしかし、食うための写真を選ばず、瀬戸内海の無人島に入植し、この国と文明社会を見直そうとしている。妥協のないその選択に打たれる。
 六二歳の彼が船出をしようとしている海は果たしてどんな海なのだろうか。
 河野雅子「無人島に去ったカメラマン」(『創』一九八三年八月号より抜粋・要約)

 一九八二年、この国に絶望し東京を捨て、瀬戸内海の無人島に入植して二〇年過ぎた。「菊次郎の海られるはずがない。すでに満身創痍の体だが、まだ肩凝りや腰痛を知らないのは奇跡的で、幼児期海で遊び呆けて成長し、芯が強いのかもしれない。
 僕の余命はあと一年である。医者による「余命宣告」ではなく、一年過ぎてまだ生きていたら、次の一年も残った仕事をやろうという、残り火に賭けた老いのゲームである。騙し騙し、いつまで使えるのだろうか。

内容説明

定住の概念さえ忘れ、彷徨い続けた半生。妻と別れ、三人の子とともに東京の雑踏へ漕ぎだし、六、三六四点の写真とともにその名を世に知らしめた。秋の山肌のような藻場、人間界のしがらみなど無縁に、自由に、残虐に、生きとし生けるものたち…。カメラを武器に反動化する世相を相手に闘ったが、メディアの自己規制により絶望感は募る一方だった。やがて日本人であることすら忌避し、瀬戸内の無人島に移り住んだ。生を憧憬しながら、寄せては返す甘美な死の誘惑の波。その波に幾度となく足をすくわれながら、写した責任を果たすため、一度は捨てた写真の世界に舞い戻り、ドキュメント写真の新しい活路を切り開いた。伝説の報道写真家・福島菊次郎、一葉万里の半生記。

目次

無人島を探して
家族との別れ
片山との出会い、井戸を掘る
家を建てた、棟上げは「誅裕仁」
島で生きる
さらば、片山島
ふるさとの海
海辺の村
ガン病棟、天皇裕仁との再会
古希の島、写真界へ復活
下関写真資料館設立
長い旅の終わり

著者等紹介

福島菊次郎[フクシマキクジロウ]
1921年、山口県下松市生まれ。1960年、上京、プロ写真家となる。原爆、政治社会、軍事、環境問題などがライフワーク。論評、エッセイなど多数。中近東、アラブ、ソビエトなどを長期取材。いかなる政党・セクトにも属さず。賞歴、カメラ誌ベストテン賞(1952~54年)、山口県芸術文化奨励賞(1958年)、日本写真批評家賞特別賞(1960年)などを受賞。日本彫金作家ベストテンにランクされたこともあり、個展18回。1982年、自給自足の生活をめざし瀬戸内海の無人島に入植。1999年、山口県下関市に写真資料館を開館。2000年8月、同県柳井市に写真美術館開館
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