出版社内容情報
経済活動のグローバル化が進むなかで、企業の社会的責任はますます大きなものとなっている。国際人権基準の観点から、ルール作りを整理し、基準のあり方を検討する。
企業の社会的責任に関する国際的指針:国際人権法の視点から 山崎公士
ILOの動向と日本での企業規範をめぐる問題点 香川孝三
国連人権小委員会 企業の人権責任に関する規範 川本紀美子
企業と健康・医療:アフリカのHIV/AIDSを事例として 稲場雅紀
企業の社会的責任と先住民・地域社会の権利:遺伝資源の利用と伝統的知識の保護をめぐる問題から 薗 巳晴
グローバル・コンパクトへのシティの参加とその可能性:企業の国際的行動規範履行確保へのメルボルンの施策を例として 菅原絵美
児童労働と企業の社会的責任 岩附由香+白木朋子
より包括的な企業倫理に向けて
人権と環境への企業の社会的責任 岩谷暢子
資料1●人権に関する多国籍企業およびその他の企業の責任に関する規範
資料2●労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言とそのフォローアップ
2003年の国連の動き
ILO:仕事における差別
条約委員会による個人通報に対する見解
ユネスコによる「国連反人種主義・差別撤廃世界会議」(ダーバン会議)のフォローアップ
アジア・太平洋国内人権機関フォーラム(APF)第8回年次会合
資料3●アジア・太平洋国内人権機関フォーラム最
近年、企業の社会的責任という言葉が急速に人々の関心を集めている。背景に企業の不祥事などが続いたこともあるが、それだけでなく社会の企業に対する期待や注目が企業の本来の営利活動だけでなく、同じ社会の一員である企業市民としての活動にまで及んでいることもあるのではないだろうか。
いうまでもなく、企業の活動は人々の雇用、技術開発や社会の経済発展などをもたらしており、人々の生活の向上に貢献している。しかし一方で、従業員の結社の自由などの労働権の侵害、児童労働、排水や廃棄物による環境の悪化や健康への被害など、あるいは住民を弾圧する外国政府への支援など、企業に働く人や企業の活動先の住民など企業に関わるさまざまな人に被害を及ぼすこともある。経済のグローバル化がいわれて久しいが、企業活動の影響は国境を越えて広範な分野に拡大しており、今や国際的な、そして分野横断的な対応が模索されているのである。
企業は活動している国・地域の法律を遵守しなければならないのは当然であるが、法規制がない場合、あるいは法が及ばない事態についてどうするのか。活動や影響が国境を越える場合はどうするのか。現行の制度で充分なのであろうか、などのさまざまの社会的責任の議論を人権という観点から、総論的な見地だけでなく、児童労働やHIV/AIDSなど個別的な問題における企業や市民社会などの取組みを通してその展開や課題を明らかにしようとした。
また、国連やアジア・太平洋地域の人権に関する1年の動きについて取り上げる第2部では、新たな試みとして、若手研究者によるアジア・太平洋地域における各国の人権状況と取組みに関する報告の場を設け、第1回となる今回は7名の方々に、それぞれの国が女性、子どもまたは障害をもつ人について抱える人権の課題をまとめていただいた。この企画を通して、この地域の人権状況における課題や取組みの理解につながることを期待したい。
最後に本書の企画、ご執筆にご尽力いただいた皆様にお礼を申し上げたい。
アジア・太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)所長
川島慶雄