感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
夜間飛行
153
少数の国民が地下戦闘国家=UGを作る分割統治下の日本。取材に訪れた米人女性コウリーの望遠レンズに地上の退化した日本人の生活が映る。ここでのカメラは、世界のニュース映像によって我々が直面する断絶の象徴だろうか。ところが、カメラでは追えないUGの兵士たちがどこからともなく現れ、彼女の横をすり抜けていく。相手に一指も触れない暴力というものもあるのだと思った。無視された怒りと屈辱にカメラを抱えて飛び出したコウリーは、その瞬間からUGと行動を共にし、凄惨な感染症の地へと取材に向かう。人間を結びつける力とは何だろう?2020/04/19
HIRO1970
115
⭐️⭐️⭐️続編と思いきや、いい意味で裏切られました。繋がりはありますが全く違うモチーフの作品でどちらかというとバイオハザードに近い感じの感染症のお話。疾病と脳の働きの関係は時に様々な奇跡や不可解な現象を起こしますが、本作のヒュウガ・ウイルスはエボラ出血熱より致死率が高く、その末期には肉だけで無く自ら骨をも砕いてしまうというチョット考えつかないような悲惨な設定でした。ある種の脳の訓練を経たものだけが回復して生き残る話の筋はアンダーグラウンドの背景がある為、私には戦前の精神論的な物を何故か想起させました。2015/11/11
かえで
62
『五分後の世界』の続編。ただ前作の登場人物や事柄は殆ど出てこない。しかし設定や世界観は前作のものを引き継いでいるので前作は読んでからが○。アメリカ女性記者のコウリーが、日本国軍と共に旧九州に蔓延し猛威を振るうヒュウガウィルスの解明に向かう。ウィルス描写は丹念な調査によって書かれたもので、かなり迫真のもの。バイオハザードのような世界観と暴力的な描写の数々は、前作と同様 現代社会に対するアンチとしての作品にするために必要なもの。緊張感に常に包まれていて飽きない。作者からの『強く生きろ』というメッセージかも。2017/01/27
yamatoshiuruhashi
52
「5分後の世界」続編。然し登場人物は全く重ならず前作の世界設定の中で別の人物が活躍する。前作では今の日本からなぜか紛れ込んだ人物が生き延びることで作品世界を理解させようとしていたが、本作では戦闘国家であり技術国家である地下の日本「UG」は当然にあるものとし描かれる。世界中相互に戦っている人類が、内臓破裂や強度の筋収縮、出血死を招く謎のウィルス感染症に共に向かうための臨時停戦ラインでの筋運びになるが、描写が微細に入り時として嘔吐したくなる。結末もまたスッキリしないがコロナを収束できない現実に重なる感もあり。2021/11/28
hanchyan@その解釈でいきましょう(笑)
43
再読。パンデミックもののSFエンタメ。著者中期の代表作『五分後の世界』の世界観を継承していて、話それるがそれってば、大塚英志さんが『物語の体操』において二次創作の練習課題として挙げたほど強固(?)なものだ。ちなみに大塚さん自身は「戦後文学史の中では今のところただ一人『サブ・カルの手口』を体得した小説家」と評価しているぞ(2001年四刷より抜粋)。「ウイルスは自分では動けないし、何もできない」(P171)とか「ウイルスには善意も悪意もない」(P192)とか。けどこんな地獄のような末期症状は心底ヤだなあ(笑)2020/03/03