内容説明
見えない死の恐怖が襲いかかる。自粛要請、医療破綻、都市封鎖、地方への脱出。富む人と貧しい人の格差。渦巻くデマとパニック。それでも感染は止まらない。1665年ロンドンを襲った“ペストの大流行”は10万人の死者を出して人々の生活を一変させた。膨大な資料の圧倒的事実から書かれた迫真のドキュメンタリー小説!新訳書き下ろし!
著者等紹介
デフォー,ダニエル[デフォー,ダニエル] [Defoe,Daniel]
1660年にイギリス、ロンドンに生まれる。1684年に結婚、1685年に政治活動をはじめ、1704年には、実質的な政府の広報官として活動することになる。またスパイ活動の元締もしていて、偽名を用いてスコットランドに潜入し、匿名で政治宣伝文書を書いていた。59歳で『ロビンソン・クルーソー』を執筆し大成功を収める。以後、『ペスト』『モル・フランダーズ』などを出版した。1730年に借金取りの目を逃れて突如失踪、翌1731年に家族と離れたまま亡くなる
中山宥[ナカヤマユウ]
翻訳家。1964年、東京に生まれる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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修一朗
109
デフォーのペストを一番読みやすそうだった新訳で。300年前のロンドンのペストパンデミックの記録。当時は菌の存在も知られておらず治療薬もなかったので対抗策は感染源から逃げることのみ,実務を担う人から感染していくなど今も変わっていない点も多かった。当時は感染者ごと家に閉じ込めてしまったという。筆者自身もその有効性を疑っている。300年前でオランダと戦争中だったのに週報がちゃんと出て行政側も死亡者の埋葬や物資不足には陥らないよう精いっぱい対応していたことに感心した。次はカミュのペスト。2020/12/23
NAO
84
ジャーナリストでもあったデフォーが、叔父の手記をもとにして書いたもの。彼は、流行当初から毎月ごとの死亡者数の推移や感染の拡大についての詳細なデータをはさみ、このドキュメンタリー小説をリアルなものにしている。さらに、当時人々の言動も、事細かに記している。感染当初の根拠の無い楽観視、流行しはじめてからのパニック状態、妄言、妄信。見えない敵への恐怖にかられた人々の言動は、痛々しいほどだ。コロナ禍の現在、この当時とは違って情報もかなり正解で迅速だが、それでも未知の病に対する人々の不安は今も変わってはいない。2020/12/09
パトラッシュ
66
本書はノンフィクションか小説かで論争があるという。疫病発生時5歳だった著者に詳細な記憶のあるはずがないし、小説としてもカミュの同名作品に比べ構成が散漫で哲学的な思索に欠ける。しかし新型コロナのパンデミックに襲われている現在、リアルに迫ってくるのはデフォーだ。明確な情報がなく飛び交う噂や流言に惑い、外出時はソーシャルディスタンスを保ち、金持ちは郊外に逃げ、家族に病人が出ても隠そうとするなど混乱する社会で必死に生きる17世紀のロンドン市民の姿は驚くほど現代人に似ている。今だからこそ読んで理解できる作品なのだ。2021/02/18
星落秋風五丈原
38
「あれは一六六四年、九月の初めごろだったと思う。」大都市ロンドンを恐怖に陥れたペストの流行はこうして始まった。TwitterやFacebookもないため、原因不明の病がどこでどれだけ流行しているのかわからない。この国だけなのか、この地方だけなのか。知らせとして届くのは、教区の死者数を知らせる死亡週報だ。すぐ収まるかと思われたが、段々この数値と記載される地方が増えていく。この記載は新聞で毎日報じられた新型コロナの報道そのものである。勿論、この数値だけでは注意喚起にはならない。 2022/12/07
やどかり
25
1664〜1665年にロンドンで猛威を振るったペストの考察だ。死者の推移や取られた措置や、人々の行動など、まるでドキュメンタリーのよう。当時菌の存在は発見されておらず、目に見えない何かによって感染するようだと推測するものの、わからないことで恐怖が増すのは、350年経っても変わらない気がする。今のコロナ禍と重なるものもあり、興味深い本だった。2021/03/29