出版社内容情報
これが遺族の断りなしの無断出版であったため、いま著作権法上、プライバシー保護上の問題になっていることは新聞でも報道されている。たしかにその点は問題なのだが、それはさておいて、中身を読んでみると、あらためてショックを受ける。いまどき、こういう形の死に追いつめられる人がいるということがショックである。三月八日の日記にこうある.....。(立花隆『ぼくが読んだ面白い本・ダメな本 そしてぼくの大量読書術・驚異の速読術』114頁、より)
内容説明
巨大都市東京のド真ん中、豊島区・池袋のアパートで、77才の母親が41才の息子と共に餓死するという事件が起きました。死亡した母子は4月27日に発見されましたが、死後20日以上経過していたということです。母親は今年3月11日までA6判のノート10冊に綴った日記を残していました。豊島区は6月14日「餓死した背景を明らかにする社会的意義がある」ということで「豊島区情報公開条例」に基づきこの日記を一般公開しました。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
梟をめぐる読書
12
96年に東京池袋のアパートで発生した餓死事件の現場に遺されていた母親の日記を全文活字化したものだが、常人の感覚で読むと、奇妙な記述ばかりが目立ち困惑する。なぜ、生活保護を求めなかったのか。なぜ、飢える未来を知っていながら毎月の集金を律儀に納め続けたのか…。それらを母親の無知や無計画、あるいは歪んだ妄執のせいにするのは容易いが、恐らく彼女には彼女なりの強固な価値観があり、それに殉じて死んでいったのだろう。「生きてさえいれば」という人生観が罷り通る中、人間の尊厳というものについて、久々に深く考えさせられた。2013/06/02
しぃたろ@記録の一部が消失:(
10
1996年に池袋で起こった母子(母親77歳、息子41歳)餓死事件の記録。本書には、母親が書き続けた"最期"に至るまでの約2年間分の日記がそのまま収められている。母子共に病を患い、空腹に喘ぎ、福祉の力を借りず、ほぼ外部の人間との接触を持たず、妄執に取り憑かれ、"死なせてください"と願う母親の心情はとてもじゃないけれど想像に及ばず、絶望的で重苦しい気分になった。無知であるが故に死を迎えてしまう母子。誰がどうすれば2人を救ってあげられたのだろうか?福祉の在り方を考えさせられる一冊。2016/01/19
しほきち?
9
77歳の母親と41歳の息子が、生活に困窮し希望を持てず絶望していく様子が母親の覚書を通して、ひしひしと伝わってくる。この親子が日常から接している人間は新聞の配達と不動産屋の管理人しかおらず、外部との接触というのが驚くほど皆無。このようなニュースが流れると世間は「行政は何をしていたのだ」と言うけれど、本当に必要なのは近所のコミュニティじゃないだろうか。無知な弱者には役所への相談すら敷居が高い。これから日本は超高齢化社会に突入するけれど昔のような隣り組制度が当たり前にあった時代の良さが伝わってくる本だった。2015/12/06
澤水月
9
960902 パンス。ザーネクリーム。新聞。生活を極限まで切り詰めていても、新聞を取ることはやめなかったのだなぁ…と妙な感慨を抱いた。今だったら真っ先に新聞が切り捨てられそうだ…母親の幻視体質も印象深かった。 発刊当時、様々な版元が同じ内容の本を出したっけな
びよんせに激似
6
恋人が出来た、結婚式を挙げた、子どもが生まれた、そういった人生の幸せな瞬間にこの本を読むべきだろう。人間は愚かですぐ忘れてしまう。人生で大切な「生きることは苦しみであり、他人とは分かり合えない」ということも忘れてしまう。この本を読んで、絶望して欲しい。救いようのないこの世界に打ちひしがれてほしい。そして、悲しき老婆を笑う存在に気づいてほしい。この本は「ドウトク」の教科書である。2017/11/07