内容説明
一三世紀から一五世紀初めのパリ。王権の伸張、都市の繁栄、大学の創設、ノートル・ダム大聖堂の建立などを背景に、きわめて美しく豪華な装飾写本が多数生みだされた。書物が身近な存在となり、黙読が普及していくのもこの時代のことだった。文字と挿絵が共存する書物という場、それを読む読者の姿について思いを巡らせながら、写本装飾の変貌をたどる。中世写本美術の入門書であり、読書の歴史を語る書物論でもある。
目次
図版編(『教訓聖書』(ウィーン二五五四番)
『聖ルイの詩編』
『梨物語』
『マダム・マリーの祈祷書』
イヴ作『聖ドニの生涯と殉教』
『ジャンヌ・デヴルーの時祷書』
『ギヨーム・ド・マショー作品集』
シャルル五世の『フランス大年代記』
ベリー公の『聖母のいとも美しき時祷書』
『ブシコー時祷書』
ペリー公の『いとも豪華なる時祷書』
『ロアン大時祷書』)
テクスト編(13世紀;14世紀;15世紀)
著者等紹介
前川久美子[マエカワクミコ]
東京大学教養学部卒業、パリ第4大学第三(博士)課程修了。美術史・写本装飾研究者(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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コットン
63
ルネサンス前後の時禱書(カトリック教会のキリスト教徒としての信仰・礼拝の手引き)写本の変遷がわかる。画の箇所が当初薄っぺらい二次元だったものがルネサンス以後、奥行きのある立体的な画に。紹介されている中では、特に豪華で繊細かつデザイン性のあるランブール兄弟が作成した『いとも豪華なる時禱書』が素晴らしすぎます!2018/11/03
hryk
2
13世紀から15世紀までのパリで制作された装飾写本の解説書で、図版編とテクスト編から成っている。多くの図版が上質なカラーページに掲載されており、テクスト編の著者の解説と照らし合わせながら見るのは格別の楽しみ。本書を通読した後で改めて図版編を見返すと、時代ごとの特徴の移り変わりがより鮮明に理解できるだろう。色の濃淡で遠近を表現する手法が用いられたかと思うと、気分や情緒を重視する表現主義が全面に出てきたりと、手法の変遷も楽しめる。充実した一冊。2016/08/29
ああああ
0
13世紀から15世紀のパリにおける装飾写本について扱った本。美しい図版と共にパリで装飾写本が歩んだ道筋を追えるようになっている。基本的な見方など包括的に扱っている印象があり、装飾写本を知りたい場合はここから入ると良いと思う。読み味はやや専門家寄りにも感じたが時代による表現の移り変わりや名もなき装飾写本家を追って読める。最初期は見せたいものを大きく描いたり時系列の移り変わりを同時に見せたり漫画的な技法だったものが、遠近法などを用いた自然主義に変わり、表現主義に着地する様子を図版と共に追えた。余白装飾が好き。2024/03/21