内容説明
17世紀のヨーロッパは天災や流行病、30年戦争などで大混乱の渦中にある一方、従来の世界認識を決定的にくつがえす科学革命も進行していた。統合と秩序への機運が切実な盛り上がりを見せるなか、デカルトやライプニッツをはじめとした当時の知識人たちは,曖昧性のない厳密な知識の獲得と交換を可能にし、さらには人知の改善と増進を実現するような言語の改革運動を繰り広げる。彼らの夢見た普遍言語とは、まさに全宇宙を合理的に総括する百科学体系だった…。本書は17・18世紀にヨーロッパを席捲した普遍言語運動をていねいに跡付け、その知的変遷史を浮き彫りにした展望の書である。
目次
第1章 真正の文字の言語―知的背景
第2章 共通の文字と初期の諸計画
第3章 哲学的言語
第4章 想像の旅と理想の言語
第5章 18世紀―言語の起源・一般的文法・普遍言語
第6章 1790年代のパシグラフィー
第7章 記号と思考
第8章 イデオローグと完全な言語
補遺(普遍言語としての身振り;17・18世紀における普遍的文字と言語の諸計画一覧)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
hika
4
17-18世紀の普遍言語をめぐる種々の試みの総覧。普遍に到達するための手段の思想的な違いや、200年にわたる論争について、多くの実例を引きつつわかりやすくまとめられている。「普遍」という西欧思想の重要な概念の、非常に時代精神的な一側面が印象的2009/03/27
roughfractus02
3
普遍言語は人工言語として2つに分岐する。まずは物語上の国の言葉や実在したエスペラント語のように人々の間で話される言語体系、次に全言語の基礎にあるコードやアルゴリズムのような形式言語。両者は西洋世界に広まった記述言語ラテン語をモデルとし、グランツールの17-18世紀に植民地を多く持つイギリスとフランスによる近代の大転換の中で体系化が始まる。本書ではウィルキンズ、ライプニッツらに焦点を当てるだけでなく、発話や身振りを切り捨てた速記法や代数記号の書記言語が数学化、形式化して人工知能言語が構築される過程を辿る。2017/02/19
志村真幸
0
近代ヨーロッパにおける普遍言語というと、ラテン語やフランス語が有名だが、本書は記号によって多言語間の共通理解を得ようとした計画をとりあげている。中国語と日本語は言語は異なるが、漢字によって意味が通じるというようなものだ。 結局はものにならなかったわけだが、思想史としてたどることで、この時代の知の在り方が見えてくる。 ほかにも空想ユートピア小説に描かれた「言語」、手話に近いような「身ぶり言語」についても扱われており、言語を通して見えるヨーロッパ世界がおもしろい。 翻訳はもっとがんばってほしかった。 2023/08/02