出版社内容情報
【内容紹介】
日本プロレタリア文学の先駆をなす「坑夫」(本著作集第1巻所収)は、反逆の火を燃やす鮮烈孤独な労働者の姿を、優れた自然描写とともに描き、単なる労働文学の枠をこえ大正文学を一面から代表する作品として高い評価を受けている。作家としての宮嶋資夫は、以降昭和5年頃まで旺盛な文学活動を展開し、自らの労働体験を基にした「土方部屋」等の一連の作品(第2巻)、高利貸鬼権を題材にした「黄金地獄」、辻潤をモデルにした「仮想者の恋」、大杉栄と神近市子・伊藤野枝との恋愛を描いた「その頃のこと」(以上第4巻)、証券相場の世界を描いた長編小説「金」(第5巻)等多くの作品を世に出してきた。これらの作品は、それ自身として貴重な文学的遺産であるとともに、大正文学史研究にとって不可欠な資料でもある。また、宮嶋資夫はアナキズム運動の主要な担い手の一人でもあった。今日の混迷する思想状況の下で、大正アナキズム再評価の声が高まっているが、そのために「第四階級の文学」等一連の評論(第6巻)は多くの示唆を与えてくれるだろう。またアナ・ボル論争、大杉栄虐殺等を通したアナキズム運動衰退の中での思想的・人間的苦悩は、「野呂間の独言」「彼の 笑」(第3巻)として表現され、多くの共感を与えるものである。さらに45歳で天龍寺に出家し、最晩年には禅宗から浄土真宗へ帰依する波瀾に満ちた過程は、死の前年に完成した自叙伝「遍歴」(第7巻)に描かれている。自伝文学の傑作、社会運動史、思想史の資料としてのみならず、混迷し枯渇する現代人の思想・精神状況に一つの指針を与えるだろう。
【各巻内容】
第六巻 解説 西田勝
「第四階級の文学」全・「仏門に入りて」抄・人間随筆・余の見たる大杉事件の真相・他評論十点