出版社内容情報
日本語教育においてこれまで教師の直観によって作られていた文法シラバスを、本書ではデータに基いて科学的かつ多角的に再検討する。その上で「究極」とも言える初級文法シラバスの内容を提示する。日本語教育関係者必読の書。
本書は、「文法シラバス」というものをどのように考えるべきかについて、多角的に検討した論文集である。
本書の書名は『データに基づく文法シラバス』である。「文法シラバス」については本書の中でもいくつか定義が述べられているのでここでは割愛し、「データに基づく」という部分について、少し述べてみたい。
これまでの日本語教育にはいくつかの文法シラバスが存在するが、その多くは、当時の日本語教育関係者の経験値(「勘」)によって定められたものと言えよう。そのこと自体が問題であるわけではない。シラバスに問題点があるとしても、時代的な制約などを考えれば当然の部分も多い。問題なのは、既存のシラバスを「金科玉条」のように考え、その実質的な改訂を拒んできたこれまでの日本語教育の体制にある。
この点に関する詳しい議論は他所に譲るが、いずれにせよ、現在の文法シラバスにはさまざまな問題点が存在し、一種の制度疲労を起こしているのは明らかである。今、必要なのは、具体的なデータや方法論にもとづいて、「文法シラバス」とはどのようなものであるべきかを問い直す作業である。本書の「データに基づく」という名称には、編者および各執筆者のこうした思いが込められている。(庵功雄「まえがき」より)
まえがき
庵功雄
第1章
日本語学的知見から見た初級シラバス
庵功雄
第2章
日本語学的知見から見た中上級シラバス
庵功雄
第3章
話し言葉コーパスから見た文法シラバス
山内博之
第4章
書き言葉コーパスから見た文法シラバス
橋本直幸
第5章
出現頻度から見た文法シラバス
岩田一成・小西円
第6章
生産性から見た文法シラバス
中俣尚己
第7章
教師から見た文法シラバス
渡部倫子
第8章
学習者から見た文法シラバス
劉志偉
第9章
初級総合教科書から見た文法シラバス
田中祐輔
第10章
日本語能力試験から見た文法シラバス
森篤嗣
第11章
類義表現から見た文法シラバス
建石始
第12章
対照言語学的知見から見た文法シラバス
高恩淑
あとがき
山内博之
【著者紹介】
庵 功雄(いおり いさお)
大阪大学文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。大阪大学文学部助手、一橋大学留学生センター専任講師、准教授を経て、現在、一橋大学国際教育センター教授。著書に『日本語教育文法のための多様なアプローチ』(共編著、ひつじ書房、2011)、『新しい日本語学入門(第2版)』(スリーエーネットワーク、2012)、『日本語教育、日本語学の「次の一手」』(くろしお出版、2013)などがある。
山内博之(やまうち ひろゆき)
筑波大学大学院修士課程経営・政策科学研究科修了。経済学修士。岡山大学文学部講師、実践女子大学文学部助教授を経て、現在、実践女子大学文学部教授。著書に『OPIの考え方に基づいた日本語教授法-話す能力を高めるために-』(ひつじ書房、2005)、『プロフィシェンシーから見た日本語教育文法』(ひつじ書房、2009)、『[新版]ロールプレイで学ぶ中級から上級への日本語会話』(凡人社、2014)などがある。