出版社内容情報
専門的な単行本を読み解く力を養い、日本文化・社会への知識や教養を高めることを目的とした上級日本語学習用読み物シリーズ。古代神話、民衆運動、思想家、近代文学をテーマに日本における「ユートピア思想」の歴史をたどる。
専門家が書き下ろした単行本を読み解く力を養い、日本の文化・社会への知識や教養を高め、日本探求への道を切り拓く。日本語学習から専門的日本研究へ繋げるシリーズ。
本シリーズは、日本の文化・社会への多様で高度な関心を持つ日本語学習者に日本語で書かれた専門書を提供し、彼らの専門的な文献を読み解く能力を養い、日本の文化・社会についての専門的な基礎知識を深め、教養の裾野を広げることを目的として編まれています。
執筆陣には、その分野に深く精通した専門家をお招きし、日本の文化・社会の様々な事象を掘り下げ、その内容を初学者に分かり易く噛み砕いて論じていただきました。また、日本語教育に長く携わってきた編集委員との慎重な協議を通じ、日本語学習者にとって理解しやすい平明な日本語を用いて文章が作成されています。難解語彙には翻訳(英・中・韓)を、専門用語には解説欄を設け、ビジュアルな要素(写真・イラスト)も重視ししました。日本語学習者への配慮を十分にこころがけ、アカデミックな日本語力の増強を目指しながら、同時に専門的な水準を落とさず、日本研究の多様な世界への視野を切り拓く専門的なシリーズを目指しています。
日本とは異なる文化圏で育った外国人の学生にむけて書かれているため、自ずとその視点は相対化され、グローバルな観点から日本の文化・社会の諸事象を捉え直す試みになっています。それはまた、急速に国際化していく現代社会で活躍することを期待されている日本人の大学生にとっても、国際的な視点から見た日本の文化・社会研究の入門書として役立つものとなっています。
外国人・日本人を問わず、国際社会の中の日本文化・社会に関心を持ち、そこに関わっていこうとするすべての人に、類例のない参考書として、このシリーズを送り出したいと思います。
本シリーズ第1巻『日本思想におけるユートピア』は、高橋武智氏が海外の大学で行った講義ノートをもとに、本シリーズのために書き下ろしてくださった論考です。高橋武智氏は、「わだつみのこえ記念館」を経て、現在「日本戦没学生記念会」の会長を務めていらっしゃいますが、かつて、スロベニアで数年間にわたり、リュブリャーナ大学文学部の客員教授として日本学の専門授業を担当されました。日本語を習い始めてわずか三年間程度の学部生が対象でしたが、講義は日本語で行われ、一回九〇分の授業で本書に収められた一章分の内容が講じられるというハードなものでした。それにも関わらず学生達は、高橋氏の講義に熱心に耳を傾け、日本語による本格的な専門授業に取り組むことで、日本学専攻の学生としての自信を強め、よりいっそう勉学への意欲を高めたそうです。
『日本思想におけるユートピア』では、日本の古代神話、中世から近代までの宗教的な民衆運動、現代の文学などをテーマに、日本におけるユートピア思想の歴史をたどります。本書の読者は、実現したと思ったとたんに理想とかけ離れた現実に転化するという「ユートピアの逆説」が、時代を超え、国境を越えて、人間世界にあまねく通用するものであることに気づくことになるでしょう。 「はじめに」より
第1章 ユートピアとは何か
第2章 古代におけるユートピアの原像:常世の国
第3章 宗教的ユートピア・弥勒信仰(1)―ミレナリスムとしての一向一揆
第4章 宗教的ユートピア・弥勒信仰(2)―土着的民間信仰との習合
第5章 安藤昌益―18世紀にそびえ立つユートピア思想家
第6章 『吉里吉里人』―現代ユートピア文学の傑作
【著者紹介】
高橋武智(たかはし たけとも)
1935年、東京生まれ。東京大学仏文科卒業後、同大学大学院で18世紀仏文学・思想を専攻。文学修士、同博士課程満期退学。1965年パリ大学に留学。1963年から立教大学講師・助教授を経て1970年辞職。以後、自由に教鞭をとり他方で翻訳・著述に専念する。1960年代後半から1970年代初頭にかけてベ平連・ジャテックにかかわる。1998年~2007年リュブリャナ大学(スロベニア)文学部客員教授。高校時代から「日本戦没学生記念会」の会員として活動、1994~1998年、及び現在、同会の理事長。2010年~2014年「わだつみのこえ記念館」館長を務める。
[主な著作]
『群論 ゆきゆきて、神軍』(共編著、倒語社)
「チェコスロバキア市民革命への道程」(緑風出版刊『シリーズ東欧革命〈1〉』所収)
『私たちは、脱走アメリカ兵を越境させた…ベ平連/ジャテック、最後の密出国作戦の回想』(作品社)、ほか。