出版社内容情報
多言語比較可能な映像談話データ、ミスター・オー・コーパスを使用し、挑戦的な研究に取りくむ。文法現象の比較からの文化比較、「場の考え」の提示、視線による観察、談話行動の背後のメカニズムを求める試みなど。6編を収録。
『解放的語用論の挑戦』というタイトル,「文化・インターアクション・言語」という副題の説明は1章に詳説されています。2章から6章までの論文は,研究分担者がそれぞれ自由な発想で研究し,国内外の学会で発表した研究を論文にしたものです。どの論文も本プロジェクトが作成した多言語比較可能な映像談話データ「ミスター・オー・コーパス」を使っています。各章の冒頭には,この章ではどういうことが書いてあるのかを読者にやさしく語りかけ,末尾には「これからの研究のために」という囲み記事として,今後こんなことが考えられる,という読者へのメッセージがあります。大学生,大学院生,研究者だけでなく一般に広く読んで頂ける平易で興味ぶかい内容の書籍をめざしました。
収録の論文は,いずれも二つあるいは三つの言語の談話データ比較をしていますが,言語だけでなく談話現象の背景にある文化比較の考察が本書のタイトル『解放的語用論の挑戦』に相応しく挑戦的に展開されています。また,データ観察は,文法要素,談話表現,話者の視線配布など多岐にわたっています。文法現象の比較から文化比較を示唆する挑戦,さまざまな言語実践のメタ概念に通底する「場の考え」を提示する挑戦,視線にフォーカスし,周辺で起こる言語,音調,間,笑い,呼・吸気などの要因を複雑系志向でありのままに観察しそれを日英語で比較分析するという挑戦,談話行動の背後のメカニズムを求める新しい理論的枠組みを切り拓く挑戦もあります。また,著者達の依って立つディシプリンは語用論,言語類型論,認知言語学,社会言語学,言語人類学,情報科学と多岐ですが,それぞれの著者はディシプリンを乗り越えるアプローチをとっています。研究テーマ,方法は著者達それぞれの発想によるものですが,複数の比較研究を合わせてみると結果に共通点がみられ,それにより行動パターンとしての文化が浮かび上がってきています。これは,言語使用から文化を洗い出そうという本プロジェクトの成果です。異なる研究から得られた成果を統合的に考察し,新たな課題を設定,研究プロジェクトを発展させることが,地球の知のインフラとして求められている相互理解・人類共存在の基盤を築くことに繋がります。本書をそのための第一歩として位置づけたいと思います。 (まえがきより)
第1章
解放的語用論とミスター・オー・コーパスの意義
―文化・インターアクション・言語の解明のために―
井出祥子
第2章
文末名詞化構文の相互行為機能
―日韓語の自然発話データの対照を通して―
堀江薫
第3章
課題達成過程における相互行為の言語文化比較
―日本語・韓国語・英語の比較分析―
藤井洋子・金明姫
第4章
問いかけ発話に見られる日本人の先生と学生の社会的関係
―日英語の対照を通して―
植野貴志子
第5章
課題達成談話における日英語話者の視線配布について
―共通点と相違点からみる文化的行為―
片岡邦好
第6章
対話から見た権威の様態について
―能力と敬意―
片桐恭弘
「解放的語用論プロジェクト」論文・学会発表一覧
【著者紹介】
井出 祥子(いで さちこ) *編者|第1章担当
台湾台北市生まれ。国際基督教大学大学院修士課程修了。日本女子大学文学部教授を経て,同名誉教授。国際語用論学会会長(2006-2011),社会言語科学会会長(2000-2003)。著書に『わきまえの語用論』(大修館書店, 2006)など
堀江 薫(ほりえ かおる) *第2章担当
鳥取県生まれ。上智大学外国語学研究科言語学専攻博士前期課程修了, 米国南カリフォルニア大学言語学科博士課程修了, Ph.D.。東北大学教授などを経て,現在, 名古屋大学大学院国際言語文化研究科教授。日本認知言語学会編集委員長(2014-),日本言語科学会編集主幹(2012-)。著書に『言語のタイポロジー:認知類型論のアプローチ』(共著, 研究社, 2009)など
藤井 洋子(ふじい ようこ) *編者|第3章担当(共著)
1954年東京都生まれ。日本女子大学文学研究科英文学専攻博士課程前期修了,オレゴン大学大学院修士課程修了。放送大学助教授,日本女子大学文学部助教授を経て,現在, 同学部教授。社会言語科学会理事,Pragmatics編集委員。論文に「日本語の語順の逆転について―会話の中の情報の流れを中心にー(『日英語の右方移動構文ーその構造と機能―』ひつじ書房, 1995)など。
金 明姫(キムミョンヒ) *第3章担当(共著)
韓国仁川生まれ。梨花女子大学英語英文学科卒業。米国オレゴン大学大学院博士課程修
了, Ph.D.。漢陽大学(ERICA)英語言語文化学科助教授を経て,現在, 同大学同学科教授。論文に, “Linguistic and nonlinguistic factors determining proficiency of English as a foreign language: a cross-country analysis”, Applied Economics 42(18) (2010)など。
植野 貴志子(うえの きしこ) *第4章担当
1964年山口県生まれ。日本女子大学大学院文学研究科英文学専攻博士課程後期単位取得満期退学。日本女子大学文学部英文学科助教を経て,現在,東京都市大学共通教育部講師。論文に“Honorifics and address terms.” In: Gisle Andersen and Karin Aijmer (eds.) Pragmatics of Society (Handbooks of Pragmatics, Sachiko Ideとの共著,Mouton de Gruyter, 2011)など。
片岡 邦好(かたおか くによし) *第5章担当
1960年愛知県生まれ。アリゾナ大学大学院博士課程修了。愛知大学法学部専任講師,助教授を経て,現在,同文学部教授。社会言語科学会理事,編集委員長(2013-)。編著書に『コミュニケーション能力の諸相』(共編著, ひつじ書房,2013))など。
片桐 恭弘(かたぎり やすひろ) *第6章担当
1954年新潟県生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。NTT基礎研究所,ATRメディア情報科学研究所所長などを経て,現在,公立はこだて未来大学副学長,教授。日本認知科学会会長(2007-2008)。編著著に『社会・行動システム』(共編著,ひつじ書房,2005)など。