内容説明
幕臣の家庭事情、懐具合、さては大奥のタブーまで、1778~1836年の半世紀にわたる下級旗本のこまめな日記から江戸を探る近世史研究の特異な史料。
目次
第1章 年収五十俵からの出発
第2章 「頂戴物」と「御礼廻り」の日々
第3章 幕府の官僚組織のなかで
第4章 御貸付金拝借のこと
第5章 出世と御足高
第6章 大奥「諸事御近例之通相心得」
第7章 出世の理由
第8章 年収四百俵の「よい御役」
感想・レビュー
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やむやむ
2
経済学というより処世学か。将軍家茂の時代に実在したお庭版衆、川村修富(ながとみ)の58年間にも及ぶ手留(忘備録)を、原文の候文に読み下し文を並べ、著者の愛情篭った解説と想像を挟みながら、西暦でいえば1770年前後の御目見以上の武士の宮仕えと生活の有様を再現してくれている。仕事を命じられる度のお礼の付け届けから夏足袋の使用許可、身内の結縁離縁、出奔などの不祥事の報告、修富が出世するに従って多くなる頂き物の詳細の記述に堅苦しい候文の合間に滲み出る修富の喜怒哀楽に満ちた一生を想い読んでいて楽しかった。2016/12/24
ベンガ
0
マメは正義。江戸幕府江戸城で見習い契約社員から始まり部長代理くらいまで実直に出世した川村修富の日記帳。はしばしから誠実なつとめぶりが見えるようで、どんどん実入りがよくなる後半も筆致は淡々としていながらカタルシスがすごい。長崎奉行川村修就は一日にしてならず。優れた父、優れた子、優れた父の子は出世が断然有利な御家人のシステムなど考えさせられる。
Mitsuhiro Uji
0
今風にいうと平社員として大企業に入社し部長クラスで定年を迎えた旗本の備忘録を基にした江戸時代版サラリーマン一代記。著者による記述が抑えられ、ひたすら古文書「萬融院様手留」を翻刻・引用していくスタイルが好もしい。印象的なのは、主人公である川村修富が何かあるごとに上司・先輩に挨拶回りと付届けを繰り返す姿だ。当時の社会常識といえばそれまでだが、その常識に律儀に従う姿勢こそ勤め人の成功の秘訣ともいえる。いつの時代もサラリーマン生活の基本は上司や先輩・同輩、取引先など周囲の人々に対する「感謝の心」だと実感する。2014/04/11
wuhujiang
0
御庭番の一生を「手留」という備忘録から読み解く本。御庭番と言っても、主人公である川村修富はそんな隠密仕事に従事はしていなかったらしい。(手留に書けないことはあったかもしれないが)。娘の嫁入りのために借金したり、実入りの役職に就いたとたんに諸大名から大量にお届けものが届くようになるなど、リアルな生活が伺える。強いて難点を言うならば、修富が就いた役職の説明がなかったりする。また、修富の死まで続けるかと思いきや最後10年くらい省略されて終わってしまう。その間仕事も変わったみたいだが。尻切れトンボな印象を受けた。2023/03/20