内容説明
ヴィルヘルム・フルトヴェングラーの評伝では、著者の立場により、評価が両極端であることが多い。ナチの同調者だとして道義的に糾弾されたかと思えば、ナチ政権から迫害者を救済し体制に抵抗した人物として称賛されたりもする。しかし、どちらの立場であろうとも共通するのは、彼がこれまでの指揮者の中でもっとも偉大な人物のひとりだったということだ。本書は、フルトヴェングラーにまつわる風説を事実と照らし合わせ、「神話」の背後にある真の人物像を提示する。膨大な資料、同時代の証言者とのインタビューにより、旧来の誤りを訂正し、新たな知見ももたらす。若き日のミュンヘン時代、音楽学者ハインリヒ・シェンカーとの関係、ザルツブルクに「アンチ・バイロイト」を樹立しようとした試みがヒトラーにより阻止されたこと、そして私生活での女性関係と非嫡出子たちとの交流など、これまでの評伝ではその詳細が不明だった事柄にも言及する。本書はひとりの音楽家の評伝であるとともに、ドイツの四つの時代の政治体制そのものを描く近現代史でもある。
目次
ベルリンとミュンヘンでの青春時代「有名になろうとは思わない」
作曲家と指揮者としての第一歩「フルトヴェンドラーとかいうやつ」
マンハイムの宮廷楽長「もっとも素晴らしい時代」
ベルリンとライプツィヒでの首席指揮者「階段を登りつめる」
成功と名誉「背丈の高い三十代の男」
ニューヨーク、ウィーン、ベルリン「驚くほど広範な活動」
バイロイトでトスカニーニと「けた外れ」
千年王国の始まり「まさに死活問題」
危険な綱渡り「我々芸術家は政治に関わってはいけない」
年金生活者か亡命者か?ベルリンかバイロイトか?「まだ自由な人間として」
逃避「不快な政治的論争」
奇跡のカラヤン「
著者等紹介
ハフナー,ヘルベルト[ハフナー,ヘルベルト][Haffner,Herbert]
フライブルク在住。フリーの文化ジャーナリストとして、国内外の新聞、雑誌、放送局に寄稿。18世紀から現代までの劇場、ドラマの翻案、現代の音楽界に関する出版・放送番組が多い。レハールの評伝、「世界のオーケストラ」などの著書がある
最上英明[モガミヒデアキ]
1959年、仙台市生まれ。北海道大学大学院文学研究科でドイツ語学を専攻。現在、香川大学教授。ドイツ語、オペラに関する授業を担当。ワーグナーやR.シュトラウスのオペラ、20世紀前半のドイツの音楽や芸術、フルトヴェングラー時代からカラヤン時代にかけてのベルリン・フィルの演奏や歴史に詳しい(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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