内容説明
近代化と封建遺制が同居する時代の中で、藤村は、愛と性にまつわる自我の苦悩と彷徨の軌跡を描いた。本書は、愛・告白・漂泊を、作品理解のキーワードに据え、藤村が愛と人生をいかに展望し切り開いたかを究明した。
目次
1 青春の苦闘と蘇生―『若菜集』の主題と構造
2 秘密・発覚・告白―初期小説の方法 『緑葉集』から『破戒』へ
3 畏敬と反発―藤村の透谷像(『春』『桜の実の熟する時』を中心として;二つの透谷像とその思想的背景)
4 呪縛と破壊と解放(『家』の主題―旧家の倫理の貫徹;『新生』の渡仏動機―旧家の執権と不倫の恋;『新生』の意味するもの―旧家とその倫理の解体;『新生』におけるアベラールとエロイーズ―肉欲から生じた愛の倫理)
5 歴史と故郷への回帰(『夜明け前』の歴史観―「半蔵」と藤村の相違;『夜明け前』と栗本鋤雲)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
あかふく
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藤村の作品を愛・告白・漂泊のキーワードで読む。とくに「愛」に関わってその肯定否定が生涯通じてどのように言われているかに主眼が置かれる。北村透谷のプラトニック・ラブを言う議論に感銘を受けながらも藤村自身は肉欲を否定しきれない。その透谷像はフランス行(『新生』事件を背景とした)によって「近代」の問題を中心として回転する。そして透谷は藤村の中で父正樹(『夜明け前』の半蔵)に重なっており、ここにも肯定と否定のせめぎ合いが生じる。こう見ると、藤村の思想は一貫したがらも環境によって変化させられたように見えるようだ。2014/06/16