感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
横浜中華街2024
18
1935年に書かれた第1回芥川賞受賞作品。3部作構成になっており「蒼氓」は1930年の神戸の移民収容所を舞台にした東北出身の貧農のブラジル移民たちの出航までの話、「南海航路」はブラジルまでの45日間の船中の様子、「声なき民」はブラジルに到着した移民たちの物語となっている。読んでいると自分もあの時代にブラジルに移民するかのような疑似体験が出来る。出航前も出航中も様々な問題に直面するが、到着後のブラジルでは希望が持てる終わり方になっており、読後感は爽やか。2022/12/03
tamako
14
第一回芥川賞受賞作だけど新潮文庫版は絶版とのことで、芥川賞全集を借りて読んだ。芥川賞を何作も読んだわけでは無いけど、芥川賞と聞いてイメージする、内面を掘り下げた純文学とはずいぶん毛色が違う。ただ、100年近くも前の話なのに説得力も読ませる力も圧倒的。これと並べられてしまった太宰治の「逆行」が気の毒に思えてくる。続編も読みたい。2022/07/10
P_CAPT
10
第一回芥川賞受賞作。棄民と呼ばれたブラジルへの移民を描いた社会派作品。歌声、子供の騒ぐ声、ハモニカの合奏、万歳、エンジン音、砕ける波の音、、、移民たちの悲哀、怒り、諦念などの背景に描かれる、混沌や喧噪の対比や、旅立ちの時「生涯のブランクな頁」と思われた移民たちの時間が、ブラジル到着を目の前に「立派な生涯の一駒」へと移る切り替えしが印象的。国に捨てられても日章旗に涙し、思い描いた希望などなくても生き抜いた先「生きていること、そのことのみの喜び」を見つける移民たちの逞しさ、忘れてはならない「歴史の頁」である。2023/01/29
塩崎ツトム
10
石川達三の「生きてゐいる兵隊」は日本史の教科書にも載っているから今でも手に入りやすいけど、肝心の第1回芥川賞受賞作「蒼氓」は手に入らないなーと思っていたら、作者の郷里秋田魁新報社から値段も手ごろな復刊版が出ていた。内容も日本人が目を背けた「移民(正しくは棄民か?)」の道程と心境を淡泊かつ丁寧に描いている。あと、不景気による嫌な影が忍び寄る昭和初期の空気感も迫真。2015/10/25
東京湾
9
「ここはブラジルの国の土でもなく日本人の土でもない。ただ多勢の外国人が寄り集まって平等に平和に暮らす原始的な共同部落というに過ぎなかった」貧窮に喘ぐ農民たちは南米に新天地を求める。しかし思い描いた理想郷はそこには無く、やがて彼らが辿り着いた境地とは。ブラジル移民の群像を著者本人の体験も交え鮮明に描き、第一回芥川賞を受賞するに至った本作。貧する者に富める者、船旅の中でひしめく様々な人々の姿は、近代社会の縮図そのもののようにも思えた。確かにそこにあった事実、そこに生きた人間を描く、社会派小説の傑作である。2019/12/04