出版社内容情報
「特別の教科 道徳」が、二〇一八年四月より小学校において、
さらに二〇一九年四月からは中学校においても開始される今、
近年の道徳の教科化をめぐる議論の原点ともいえる、
一九四五年の敗戦から一九五九年における
道徳教育の成立過程を考察!
敗戦後、GHQの指令によって「修身科」が廃止され、
その後一九五八年に「道徳の時間」が特設された。
本書は、道徳の教科化を考察する上で重要な戦後初期の諸議論を、
文部省(当時)が発した文書や国会議事録はもとより、
当時の教育雑誌や新聞など広範囲の資史料に当たって分析し、
道徳教育はいかに行うべきと考えられたかという
教育方法の視点を取り入れて、
戦後日本の道徳教育の成立過程を考察した好書。
推薦のことば……倉石一郎(京都大学大学院人間・環境学研究科教授)
教育史研究を登山にたとえるなら、戦後史研究をこ
ころざすのはヒマラヤ山脈に挑むのに等しい。まして道
徳をテーマに選ぶなど、最高峰のエベレストに素手で登ろ
うとするようなものかもしれない。じつに向こう見ずな
試みだ。だが著者、.占新さんはその登攀を見事にやっ
てのけた。とはいえむろん素手で登山したわけではない。
教育の仕組みと歴史に関する幅広い知識と深い洞察に
裏打ちされた、地道で粘り強い資史料の解読作業―そ
れを可能にする然るべき装備があってこそ、困難な路が
ひらけたのだろう。
戦後一貫して道徳教育ほど、激しいイデオロギー論争
に巻き込まれ、それを語ることばが手垢にまみれてきた
トピックはめずらしい。だが口角泡を飛ばす論者たちが、
意外にも道徳教育にまつわる基本的史実すらおさえてい
ない場合が多い。かくいう私も、一九五八年の「道徳の
時間」特設を戦後教育史上の「汚点」とみる通俗的史
観に、自分がいかにとらわれていたかを本書で思い知ら
された。「時間」特設をどう評するかは最終的には各人
に帰するべきことだが、少なくともその背景に、かくも
多くの人びとが関わった真摯で興味深い論争が存在した
ことを忘れてはなるまい。道徳教育はもちろん、教育に
かかわるあらゆるトピックに関心をもつ人に本書を強く
すすめたい。
目次
はしがき
序 章│本書の視角
第一節.問題関心と研究の目的
第二節.先行研究の検討
第三節.本書の射程と構成
第1章│戦後日本における道徳教育の出発
第一節.新公民科の設置
第二節.全面主義道徳教育論の登場
第三節.社会科の発足と道徳教育
第2章│徳育教科の設置をめぐる議論の登場
第一節.修身科復活論が登場した社会的背景
第二節.天野貞祐文相の修身科復活論
第三節.天野貞祐文相以降の徳育教科の必要論と世論の反応
第3章│「道徳」の特設経緯
第一節.一九五六年度までの教育課程審議会での議論
第二節.一九五七年度の教育課程審議会での審議と「道徳」の特設
第三節.時間として特設された理由
第四節.「道徳」の位置づけ
第4章│「道徳」特設に対する賛否両論とその道徳教育観
第一節.内藤誉三郎局長の考え方
第二節.「道徳」特設反対派の考え方
第三節.「道徳」特設賛成派の考え方
終 章│戦後日本における道徳教育の成立とその道徳教育観
参考文献一覧
あとがき
索引