内容説明
共産党建党記念祝賀行事と北京万博が重なる空前の式典年に勃発した感染症パニックと、その背後で密かにうごめき始めた極秘の暗殺計画―。SARS事件、ウイグル問題、ファーウェイ疑惑など、現代中国をめぐる事態を髣髴とさせる、インターネット時代の『一九八四年』。現在、行動の自由を厳しく制限されている反体制作家による、中国本国で未公刊の問題作、邦訳刊行!
目次
靴のインターネット
ドリーム・ジェネレーター
グリッドシステム
電子の蜂
事変
民主
幸福
著者等紹介
王力雄[オウリキユウ]
1953年中国・長春市生まれ。作家、民族問題研究者。1978年、文革後最初の民主化運動「民主の壁」に参加、94年には中国最初の環境NGO「自然之友」を創設。2002年当代漢語研究所より「当代漢語貢献賞」、同年独立中文ペンクラブより第1回「創作自由賞」、2003年ヒューマン・ライツ・ウォッチより「ヘルマン・ハメット賞(助成金)」、2009年チベットのための国際委員会より「真理の光賞」、等を受賞。『黄禍』は1999年『亜洲週刊』「20世紀に最も影響を与えた中国語小説100選」の41位に選ばれた
金谷譲[カナタニジョウ]
1960年生。翻訳者(英・露・中)。1991年大阪大学文学部研究院博士課程前期修了(専攻・中国中世史)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
133
作者は妻と共に中国当局に行動の自由を制限されている作家。AIを用いた国民の監視、国家的レベルでの情報操作や捏造、それに個人の欲望が絡むSF。期待高く読み始めた。しかし、体制批判のために作者が作り上げた舞台は、問題提示としては理解できるが、男女間の性的描写が週刊誌の記事のような内容で、その量が少なからずあり、そのために全体の印象レベルが下がってしまった。最初にある中国の地図を改めて見た時、ウイグル、チベット、モンゴル地域の広大さに怖くなる。これら全てを果たしていつまでコントロール下に置き続けられるだろうか。2019/09/12
まーくん
91
中国語原題『大典』。近未来SF(政治ファンタジー)小説。最近読んだ安田峰俊著『中国ぎらいのための中国史』にて”ゼロコロナ政策を見通した「予言の書」”として紹介されていたので図書館へリクエスト。2019年、藤原書店刊行。繁体字による台湾版は2017年刊。最先端のIT技術を用いて作り上げられた監視社会。現在の共産党一党独裁下、更に言えば習近平主席一極権力集中体制下の中国の政治状況を強烈に揶揄している。そういう訳で勿論、中国本土では出版できない。(そんな著者が北京に住み著作活動ができるというのも不思議だが…⇒2024/11/11
HANA
63
「ゼロコロナ政策を予言した書」と紹介されていたので興味を持ち読む。最近中国SFが推されているのだが、そういう流れだと本書の出版は無理だろうなあ。本書の中にはウイグルやファーウェイ、農村と都市等、現代中国が抱える問題がこれでもかと詰め込まれているのであるから。架空の近未来の道具が多数出ているが、どれもディストピアを彩るものにしかなっていないし。というか靴くらいはそろそろ実現されてそう。登場人物もほぼ小物の俗物で、小役人が小心と保身のためにえらい騒ぎを起こすというのも哀感をそそる。絶望に塗れた凄い一冊でした。2024/12/21
おたま
35
中国の作家によるSF。近未来(と言っても2021年ぐらい。出版が2017年)の中国を舞台にして、共産党創設100年の記念式典(セレモニー)に向かって国を挙げて盛大化していく。その過程で問題なく遂行されるために駆使される大衆管理テクノロジー(IoS、グリッドシステム、電子蜂等々)。まさに「デジタルレーニン主義」をさらに進化させたところに出現するアップグレードされた『1984年』の世界。しかし、そこに人々の様々な欲望(権力欲、名誉欲、金銭欲、そして性欲も)が絡まってくることにより、体制が暴走し始め・・・。2022/03/27
パトラッシュ
15
AIやドローンなど最新技術が独裁政治と人民監視に容赦なく乱用されたら。そんな悪夢が現実と化している中国の作家による、技術の使い方は熟知しても理想も希望もなく欲望と保身しか考えない小心者によって強大な権力者が呆気なく葬られてしまうというストーリーは「きれいは汚い、汚いはきれい」の世界であり、共産党政権に対する強烈な皮肉と揶揄に満ちている。『1984年』に匹敵する反ユートピア世界を描きながら悲劇性がほとんど感じられず、人の愚かさを苦いユーモアに包んで笑い飛ばす手法は『阿Q正伝』など魯迅以来の伝統を強く感じた。2019/06/27