内容説明
食べては詠み、詠んでは食べる。その旺盛な食欲と創作欲は子規を彷彿させる。若き俊英の快作。乞うご高評。
目次
1(つま;もういちど;長居;モロヘイヤ;牛めし;秋天;じやがりこ)
2(刺身パン;隣人;究極のかにかま;ヤング;Sunny;回数券;焼肉;寿司その他;ゆらゆら;ジョンダリ;手花火)
3(ボウリング;ひらり;ももいろの頬;衣;開栓;たくさん;TSUBAKI;さいふのうどん)
4(梅が枝;もちみそ汁;うなぎ;ガオー;ぽんぽん;大水槽;銀皿;さくらの道を;春の鍋;ひらかない;従順)
5(白桃;叔母さん;卵かけご飯;緑地帯;ビーズ;函;おもしろい;滴り)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
あや
22
21年刊。山下翔さんの第二歌集。私の所属結社の結社誌に一部抜粋が掲載されていたのをきっかけに手に取る。タイトルの示すように食べ物の作品が多く、とても良い。何年か前俳句の師匠に「食べ物を詠むときはいかにも美味しそうに詠みなさい」の旨のご指導を受けたけど、いかにも美味しそうな作品が詰まっている。たまに挟み込まれる複雑な家庭事情を窺わせる作品にドキッとする。 使ひどころ見つけえざりしマヨネーズ 唐揚げ定食の皿に残りぬ/ちくわ、キャベツ、こんにゃく、人参、玉ねぎに鯖のはひった鍋をわけあふ2024/11/17
双海(ふたみ)
12
「食べることがとにかく楽しみである。食べること抜きに人生というものを考えることはできない。」(「後記」より) 食べては詠み、詠んでは食べる。その旺盛な食欲と創作欲は子規をも彷彿させる。第1歌集『温泉』で第44回現代歌人集会賞、第63回現代歌人協会賞を受賞した山下翔の第2歌集。「きみが来てきみがなぞつてゆく町をふだんはなんとも思はないのに」「午後晴れてかぜにながるるはなびらのうすき胸持つきみをしたひき」2023/07/15
qoop
9
感情の起伏や人生の振幅を謳った歌の合間々々に挿入される食の歌。食べることの楽しさと充足感が揺れる気持ちを均していくよう。情緒に翻弄されることも身体を維持する本能に従うことも、自分では制御できない奥底の自分の存在を証ている。/家にガスとほりて完成するごとし体やすめる家といふもの/朝の湯に若きあり老いあり中年あり少年をらず青年少な/正月に餅たべることうしなひぬひとつ暮らしのひとりの部屋に/おにぎりを箸で食べゆくさみしさは何だらう母と九年を会はず/わらつちやふくらゐおほきな鍋のあとふたたびわらふうどんの量に2022/04/10
yumicomachi
4
とてもさみしい歌集だと思った。それは繰り返し「還らざる時」が歌われているからだろう。〈いもうととあぢさゐの道あるきたる百合保育園年長のころ〉〈話したことも聞いたことも皆忘れたり時間といふものがかへつてこない〉等。題名や後書にあるように、飲食に関わる歌が多いのだが、その中でも〈食べたもの食べた夜そのきらめきが冬の真闇にともしびのごと〉の切なさに注目した。〈うしろから来てわれを抜く一片の黄揚羽かかる逢ひ一つあれ〉〈きみと過ごしし時間一斉に咲くごとく桜はしろき弾力を咲く〉等の美しい歌もある。2021年12月刊。2022/05/31
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- 和書
- 名犬ラッド 小学文庫