感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
はち
4
正直、派手さはない。表現にインパクトのある作品では決してない。それでもなお、ここにある歌には強い力がある。影の強い作品ではあるが、暗さのある作品ではあるかもしれないが、それは一貫したテーマである。兄を阪神淡路大震災で亡くしたこと、おそらく父とはうまくいってない。そして教師の仕事。同じ教師でもちばさと先生と比べると真逆である。だが、我々はその影を、闇を見つめないといけない。わかりやすい歌だけが脚光を浴びる中で、かえってこの影が輝いて見える。2015/08/06
はち
4
大きく分けて3種類の歌が集められた歌集。①教師の仕事②仏教、仏像などを詠んだもの③家族詠。主に震災で亡くした兄を詠んだもの。作者にとって一番のテーマはおそらく最後のものであろう。アララギ派らしい写実的な歌が多いが、悪夢のような歌やユーモラスな歌も多く、落ち着いた文体と合わせて、若手にも届きやすい歌集だと思う。回転するスプリンクラーが均一に芝生の光を切りさいてゆく 阿修羅のみサンダルを履く謎を言ふ少年じみた君の横顔 2015/04/16
秤
1
ひるがへり泳ぐ少年腹白く水に映れる雲の中ゆく|真暗な震災前の家の中で兄の名を叫ぶ夢を見てゐた|冷え切つた剃刀頬に当つるときフィラメントのごとき雷のひらめき|「ぼく」といふ一人称をつかふ少女が道にちぎりて捨てるヒメジョオン|少年と呼ばれし頃もいつか過ぎ耳にあてたき青貝のあり|暗渠に棲む魚に目はなく夢をみるその夢の間を生きてゐる吾ら|鉄柵はひやひやとして吾が前に落ち着かぬ白き狼がゐる|何もかも壊したきおもひ胸に秘めまなこに雪のふる馬を見る|眠りゐる君のまぶたは釈迦族の羅睺羅の像と同じ形して|2025/02/16
Edo Valens
1
電話にて君の言ひたる悪口の数だけソファの毛を抜いてゐる / 臼歯ほどの消しゴムを取りに少年は小教室に戻りて来たり / 金継ぎの青磁の碗を見て知れり傷あるものの美しきこと /。 青い表紙に、書名と、とても小さく楠さんの名前が書いてある。一瞬、著者の名前が見つけられないくらいに。著者略歴をみてみると、神戸の人だそう。私と同じだ。ダークな色合いの歌が目立つけれど、ページをめくってゆけば、淡い休日のような歌もそっと佇んでいる。かっこいい大人でありながらも、どこか等身大であるような主体に親しみを覚えます。2015/10/24
アキ
0
闇、影、死、夢、幻、夢という語に関する歌が多く、歌集のイメージを創り上げている。そのような歌の中でも亡き兄に関する歌には万感の想いがあるのが伝わってくる。特に好きな歌を...。「ブラインドのさざ波なせる影あびて君の読みゐしカフカ『変身』」「丸まつた靴下入りの上靴がプールサイドにならんでゐたり」「少女の霊乗せてゐるやうやはらかなへこみの残る椅子冷えてゐつ」「乗りし人もいづれは花に横たはる花咲く川辺に捨てられしバイク」「狂ふとは狂ふおのれを知らぬこと 白壁に吾が影が伸びゆく」2022/05/07