出版社内容情報
短歌ブーム前夜の2000年代初頭、インターネット上に彗星のように現れた歌人・村上きわみ。歌集未収録作品をあらたに編集した『とてもしずかな心臓ふたつ』、絶版歌集『fish』『キマイラ』を一冊にまとめた決定版。
別冊栞 村上きわみ一首評:穂村弘・田中槐・枡野浩一・岡野大嗣・平岡直子
【収録短歌より】
次に来る波をむかえにゆきなさい尾を高くしてわたしのけもの
なつかしい未来 あなたともう一度にくんだりあいしあったりしたい
そうでした 最後に見せてくれたのはこの世のへりをつかむ足指
心臓をまもって歩くけものたち(夏のいのちはいたみやすいね)
靴紐をきつく結んだ 好きでいることを謝りたいひとがいる
白湯で溶く蜜のぬめりのどんなにかくるしいだろう ふゆがはじまる
水の襞ひどく乱して白鳥は今いっしんに飛び立つところ
欲望、おまえが口にするときの奇妙な涼しさを信じよう
灯台の胴に巻きつく海風の、そうだね、すべてくつがえしたい
こちらからあちらの岸へ にくたいはすずしい舟とあなたは言った
よいつらら育つ真冬をありがとう ひどいことたくさんありがとう
魚の声鳥のことばでかわしあう約束ならば未来のために
【著者紹介】
村上きわみ(むらかみ・きわみ)
1961年生まれ、北海道出身。北限短歌会、ラエティティアを経て、2011年、短歌結社「未来」入会。2012年、未来年間賞受賞。歌集に『fish』『キマイラ』。2023年逝去。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
あや
15
著者は1961年北海道富良野市生まれ。岬短歌会、北限短歌会に所属後未来短歌会所属。2023年10月30日釧路にて逝去。歌友錦見映理子さんの手により編集。生前の2歌集に加え2歌集後の作品が収録されている。自在に描き出される歌世界に魅せられる。遺された作品がこのように拝読できることに深謝。 いつのまにか冬はきていてネルドリップのネルやわらかい/背から抜く赤乾電池 メアリイのとてもしずかな心臓ふたつ/戦から次のいくさへ春服の少女がこぼす焼き菓子の粉/市立病院最上階のあの窓のぼくらの指紋はどうなったろう2025/12/18
chacha子
6
はれ〜柔らかくて時に鋭く刺してくる、自在な言葉たち。何度も読めば心が豊かになりそう。2025/08/27
チェアー
5
好きな歌を並べたら結構多かった。性愛の歌よりも、自然を描きながら突然不穏な自分に戻ってくるような歌が好き。 どの歌も冷たい感じがある。北海道、と聞いてなるほどと思う。吐く息が白く見えている。その冷たさが鼓動を刻む心の臓のどくどくという熱さと対象的だ。冷たさが底にあり、その上の温かさを感じる。2025/09/18




