出版社内容情報
全米図書批評家協会賞受賞作、ウクライナの国民的作家クルコフの傑作長編!
雪原により残されたしたいは、ウクライナ兵なのか親ロシア分離派なのかーー
狙撃兵と地雷に囲まれ誰もいなくなった緩衝地帯に取り残された中年男二人。
クルコフならではの飄々としたユーモアで戦争の不条理を描いた傑作、待望の翻訳。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
59
『戦争日記』にて存在が明らかになった本が遂に翻訳。親ロシア分離派とウクライナ軍の間で戦争が起こり、村人がほぼ、避難した村で蜜蜂を守って暮らすセルゲーイチ。電気はほぼなし、たった一人の隣人は狡賢いが頼りにもなり、物々交換でその日を暮らす。だが、彼が大切にしている蜜蜂に存続の危機が迫る。彼らを少しでも生き延びさせる為にセルゲーイチは村を出る。しかし、村の外は更に白黒つけたがるが故の不条理のワンダーランド化していた。宗教は救わず、権力の横暴は容赦なく、襲い、人々は心情を押し殺し、「灰色」となって生き抜くしかない2024/12/01
ヘラジカ
59
国と国に挟まれ圧殺されていく人間の大多数は”灰色”であるという当たり前の現実を思い出させてくれる静かな作品。前半は解説で「スローライフ」という表現が使われるほど穏やか(どこか達観している)に異常と日常が混合して描かれており、中盤以降はロードノヴェルへと変化し神話のような超然とした帰還の物語へと変遷していく。感情の振れ幅があまり大きくないが故に、この世に間違いなく存在する限りなく”地獄寄りの煉獄”が圧倒的なリアリティをもって迫ってくる。軽やかな筆致なのに荘厳。卑小な人々に宿る神性を描いた傑作である。2024/10/08
のりまき
25
セルゲーイチはどこまでも善人だ。この状況の中でこれほどピュアでいられるのが驚き。だから、皆彼を愛し、頼りにし、助けるのだろうね。牧歌的なセルゲーイチの周りと対照的に描かれる背景は現実的できな臭い。セルゲーイチの旅が無事に終わるよう、待っている人の元へ帰れるよう、願ってる。2024/11/04
フランソワーズ
20
戦時下のウクライナ。グレーゾーンという緩衝地帯の村に住む養蜂家セルゲイの旅物語。戦争の気配はところどころに見られるが、ミツバチの生態に寄り添って生きるセルゲイの生き方や考え方、旅先で会う人々の温かい交流に心が和む。もちろん、黒と白の中間色というのがさまざまなことを示唆している。2025/01/19
taku
17
特別ではない人たちが、人との交わりの中でみせる普通の魅力を、軽妙さを交えながら描ける作家なんだと思う。そこが安堵できる物語の拠り所。紛争地帯のグレーゾーンからミツバチを連れて流浪してみれば、理不尽が蔓延っている。人と人は交流し、土地も景色も繋がっているのに、なぜこんなに分断してしまうのだろう。灰色のミツバチは死の連想と、争いや権力によってグレーにさせられてしまうことを意味するのだろうか。現実で未来の戦争は始まってしまった。物語中の終結は、力による平和だったのかい?2024/12/30