内容説明
「きみ」は写真家で、「彼女」はダンサー。2017年冬のサウスイースト・ロンドンで出逢ったふたりは、アフリカ系イギリス人のコミュニティやカルチャーのなかですぐに「一番の親友」になり、やがて恋人になる。季節の移ろいとともに関係はさまざまに揺れ動き、トラウマや悲しみ、人種差別が、時に大波を起こして「きみ」と「彼女」をさらっていく。それでも二人は、心の中の大海原で途方にくれて溺れている相手に手を差し伸べ、愛することを諦めない。2021年英国コスタ新人賞、2022年ブリティッシュ・ブック・アワード新人賞を受賞した注目の書き手が優しく詩的に描く、デビュー長篇小説。
著者等紹介
ネルソン,ケイレブ・アズマー[ネルソン,ケイレブアズマー] [Nelson,Caleb Azumah]
1993年生まれのガーナ系イギリス人作家、写真家。サウスイースト・ロンドン在住。デビュー長篇である本作がイギリスで高い評価を受け、2021年コスタ新人賞を受賞
下田明子[シモダアキコ]
訳書に『300点の写真とイラストで大図解 世界史』(ニュートンプレス)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
下田明子[シモダアキコ]
早稲田大学第一文学部卒業
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
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藤月はな(灯れ松明の火)
48
映画『トリとニキタ』、『憎しみ』でも描かれたヨーロッパでの黒人への対応。それは黒人は犯罪者として公僕に疑われ、暴力を振るわれる(そしてそれが公然の事実となっている)事。ガーナ系イギリス人の「きみ」はアフリカ系イギリス人の「彼女」に出逢った時から惹かれ、「友達」となり、紆余曲折を経て「恋人」となった。だが、トラウマや家庭から強制された男らしさから抜け出せない「きみ」と全てを分かち合いたい「彼女」と溝ができてしまう。友達だった時に始終、一緒にいるから寝ているんじゃないかと周囲に邪念を抱かれる鬱陶しさに苛立つが2023/09/19
かもめ通信
23
ガーナ系イギリス人作家による長編デビュー作は、時折すすり泣きが聞こえるような、とても静かな、とてもせつないラブストーリーだ。と同時に、穏やかな声でありながらはっきりきっぱりと、ロンドンという街にはびこる人種差別をも描き出す。印象的な場面を拾い集めた映画を観ているような気分で、「きみ」と「彼女」の物語を読み進めるうちに気づく。ああそうか、これは写真だ。場面場面を切り取って、そこに言葉を添えていく。写真家らしいきみの手法なのだと。 2023/05/29
星落秋風五丈原
16
親友から始まり恋人になったカップル。しかしふとしたことから別れてしまう。まず最初にきみ=男性主人公の人種がわかる。2023/08/20
Inzaghico
7
本書の主人公、ガーナ系イギリス男性の「きみ」はアフリカ系イギリス人の「彼女」と親友になる。お互いにそこから一歩踏み出したいが、宙ぶらりんの状態が続く。彼は人種差別や男らしさという宿命も背負い続ける。やがて二人は両思いになるも、ふとしたことからあっけなくその関係に終止符が打たれて……。 「きみ」が愛好する作家や音楽の固有名詞が、カタログのように多々出てくるのが特徴的だ。彼が崇めている作家はゼイディー・スミス、彼が好きなミュージシャンはケンドリック・ラマーだ。好きなものが彼の壊れそうな魂の支えになっている。2023/07/30
Mipo
4
20代の黒人アーティスト同士のロマンスに音楽が寄り添った、イギリスのBLMをテーマにした作品。五感にうったえる物語で、読後は、映画鑑賞して美しい映像や光を浴びたときに似た余韻に包まれた。二人称の語りが効いている。近年再開発されたサウスイースト・ロンドンや、UK音楽に興味のあるかたは必読。2023/06/25