内容説明
地球内部に住む地底人の先進的な文明社会ヴリル=ヤとの接触をつぶさに描いた19世紀後半の古典的小説。卓越した道徳と科学力、超エネルギー「ヴリル」と自動人形の活用により、格差と差別だけでなく、労働や戦争からも解放された未知の種族をめぐるこの異世界譚は、後世の作家やオカルティストたちに影響を与え続けている。神秘思想、心霊主義、ユートピア思想、SFなどの系譜に本作を位置づける訳者解説を付す。
著者等紹介
ブルワー=リットン,エドワード[ブルワーリットン,エドワード] [Bulwer‐Lytton,Edward]
1803‐1873。イギリスの政治家・小説家・劇作家。初代リットン男爵。ダービー内閣での植民地大臣(1858~59)。社交界小説、政治小説、犯罪小説、オカルト小説など多様な分野で活躍したヴィクトリア朝の流行作家。日本でも明治時代に多くの作品が翻訳された
小澤正人[オザワマサト]
1953年生まれ。東京学芸大学大学院修士課程修了。現在、愛知県立大学外国語学部英米学科教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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藤月はな(灯れ松明の火)
90
地下で見つけた、翼を持てる種族たちが築き上げた世界。そこは超自然の力であるヴリルと自動機械によって労働・戦争から解放され、階級も貧富も差別も死もなく、女性が尊敬されるユートピアだった。社会構造だけでなく、言語も記しているのが『ホビットの冒険』を思い出させます。しかし、差別がないといってもそれは地下に住んでいる人たちだけであって、人間である主人公は馬鹿にされ、最終的には秩序を乱す分子として危険視されるようになる。その事からユートピアはその秩序と異なる者を排除する事で完全性を成立させる矛盾を感じずにいられない2019/03/07
ヴィオラ
10
どんなに素晴らしいユートピアであっても、「文学」が衰退している世界なら全く住みたいと思えないです。 地下世界に人類とは異なる種族が作り上げた世界があって、そこに迷い込んだ主人公がその世界で色々なことを体験する。ユートピア物としてはオーソドックスな展開。後書きに書かれているような多様な「読み」をするには、諸々経験値が足りない感じ…。 地下世界の住人は実はカエルから進化した種族だという記述に、お、ラヴクラフト的展開?と思ったけど、割とサラリと流されてしまいます。2021/06/02
スターライト
10
1871年に出版されたブルワー=リットンのユートピアSF。鉱山の裂け目から地下世界に到達した語り手が、そこで経験した別世界の様子を語る。そこの娘とのロマンスが後半に出てくるが、もっぱら地上世界とは違う地下世界の紹介にスペースが割かれ、そこはリットンの理想としたと思われる社会ではないかと思うのだが、アメリカこそ理想社会と信奉する語り手には退屈に感じられ、結局は地上へと帰還していく。詳細な注釈と解説では、本作品が様々な角度から読み解かれ参考になる。果たして地下世界の住人が「来るべき種族」となりうるのか。2019/01/05
渡邊利道
5
1871年発表の英国科学ロマンス小説。神秘主義の影響の強いユートピア小説で、超エネルギーを活用して労働から解放された貴族的な平等社会を実現した地底人を描く。細かい設定の細部や叙述全体の構造の歴史性は面白いというか興味深い。2019/01/18
→0!P!
2
天使の姿に似た強大な科学力を持つ地底人に紛れ込んだ鉱夫の男。競争を嫌う平等主義、合理主義(他人種に対しては冷酷)が比較的、徹底されている。そのためか、スポーツより音楽が発展している。男女の体つき、倫理は人間界とはちょうど真逆であり、女性こそ騎士道精神を兼ね備える。争いがないことから、ドラマもない。文学は衰退している。なぜか毛も退化しており、カエルをルーツとする神話のようなものはある。男は、この地下の完全な日々の、絶え難いほどの平穏に苦しむのだった。2022/12/12