内容説明
なぜ「たまたま」や「ひょんなこと」や「奇跡」で小説を組み立ててはいけないのか。昭和10年代、中河与一の偶然文学論は近代文学伝統のリアリズムに対して果敢に挑戦した。本当にリアルなのは偶然の方なのだ。が、その偶然なるものは、どんな“触れ‐合い”を排除することで成り立っているのか。中河、国木田独歩、寺田寅彦、葉山嘉樹のテクストに宿るcontingencyを“遭遇con‐tact”と“伝染con‐tagion”、つまりは“触れ‐合うことcon‐tangere”の主題系として読み解く。偶然という言葉でもってなにかを語った気になってはいけない。
目次
序 偶然を克服/導入せよ?
第1部 コンタクト(偶然性の時代;中河与一『愛恋無限』と日本的伝統;国木田独歩『鎌倉夫人』と主題“場所性”;国木田独歩『号外』と主題“外部性”;国木田独歩『第三者』と主題“感性” ほか)
第2部 コンテイジョン(中河与一の初期小説と主題“伝染性”;寺田寅彦の確率論;寺田寅彦の風土論;葉山嘉樹文学の住環境と主題“混合性”;葉山嘉樹の寄生虫 ほか)
著者等紹介
荒木優太[アラキユウタ]
1987年東京生まれ。在野研究者。専門は有島武郎。明治大学文学部文学科日本文学専攻博士前期課程修了。ウェブを中心に大学の外での研究活動を展開している。2015年、「仮偶然の共生空間―愛と正義のジョン・ロールズ」が第59回群像新人評論賞優秀作となる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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さえきかずひこ
8
これは中河与一の諸々の評論にインスパイアされた著者による、プロレタリア文学批評の書である。巻末の葉山嘉樹論を綴る筆致には、それまでの独歩や寺田寅彦をめぐる落ち着きではなく、論じる対象への熱情と繊細さが同居している。そこにぼくは筆者が文学を論じることで示す、生をあがく人々への同志的共鳴を聴く。本書の中でとりわけ著者の魅力が溢れているのはそこに違いない。"仮説的"(九鬼周造)"偶然文学"(中河)といったキータームに関心を持てると、より豊穣な読書体験に至るであろうことの想像はつくのだが、正直、それは難しかった。2018/05/30
恋愛爆弾
1
最近のSF的世界観を事前に設定した上でのメタフィクションの各ジャンルへの流行にちょっとした違和感を抱いていた身としてはかなり面白かった。2018/12/25




