内容説明
フランス革命の只中、18世紀末のトリノで、世界周游の向こうを張って42日間の室内旅行を敢行、蟄居文学の嚆矢となったグザヴィエ・ド・メーストル「部屋をめぐる旅」―その続編「部屋をめぐる夜の遠征」、および「アオスタ市の癩病者」の小説3篇と、批評家サント=ブーヴによる小伝を収録。
著者等紹介
メーストル,グザヴィエ・ド[メーストル,グザヴィエド] [Maistre,Xavier de]
1763‐1852。サルデーニャ王国シャンベリ生まれのフランス語圏作家。反動思想家ジョゼフ・ド・メーストルの弟。本職は軍人のため寡作ではあるが、フランス革命下に自らの部屋を旅したという奇妙な旅行記『部屋をめぐる旅』によって名を残すほか、ジュネーヴの作家ロドルフ・テプフェールとの親交により、フランス国外のフランス語圏文学への着目を促したことも、文学史的に特筆される。後半生は主にロシアで暮らし、サンクトペテルブルクで亡くなった
加藤一輝[カトウカズキ]
1990年、東京都生まれ。東京大学大学院・人文社会系研究科(仏文)博士課程在学中。リヨン高等師範学校に游学ののちパリ大学(旧パリ第七大学)修士課程修了、その間に三度の部屋をめぐる旅を行なう(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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5〇5
7
「蟄居文学」と言うらしい。それは多様な引きこもりのあり方を表現した文学であり、本作がその嚆矢だそうだ ♦表題作は家から一歩も出ないで部屋を旅して42日間めぐるのである。その続編は夜半過ぎまで夜の部屋をめぐる話なのだ ♣主人公は、内省しながらも夢想し思索する。引きこもりの戯言と侮るなかれ、深遠なる世界が広がっていく ♥他一編は疫病で隔離、独り幽閉されている患者のあり様が描かれる ♠コロナ禍のロックダウンやステイホームを例に引くまでもなく、我々の身近にある引きこもりを意識してみるのも一興だろう。2023/10/14
qoop
7
蟄居生活を余儀なくされた著者は逆転の発想で、室内の設えに喚起されて内的世界の旅に出る。ダラダラと繋がりのない断片的な語りは微かな刺激にゆるく反応した精神の流れを追うようで愉快。ここにローレンス・スターンからの影響を見るのは納得できる。「トリストラム・シャンディ」しか読んでいないが「センチメンタル・ジャーニー」も復刊されないかな…などとぼんやり思っていたため、併録の〈アオスタ市の癩病者〉との落差に怯まされた。2021/12/17
akios
1
「部屋をめぐる旅」「部屋をめぐる夜の遠征」どちらも内省的でありながらユーモアも詩情も素晴らしくよかった!「アオスタ市の癩病者」は世捨て人とならざるを得なかった男と異邦の旅人との一時の交流。美しい、友情が続いてほしかったけれど、自らそれを断つ男のさまに一層哀しみを感じる。訳文がよかったのかもしれないけれど、とてもすき。何度も読むだろう。2022/02/23