内容説明
パリの日本人コロニーを舞台にした“ジャポニズム・フィクション”として、20世紀初頭、欧米各地の劇場を席捲、「黄禍論」の議論を呼んだドラマ。「台風」現象としてセンセーションを巻き起こした、ハンガリーの劇作家レンジェルの代表作。
著者等紹介
メニヘールト,レンジェル[メニヘールト,レンジェル] [Menyh´ert,Lengyel]
1880‐1974。ハンガリーの劇作家。本作「颱風」が世界的なヒットとなる。他の代表作に、ハンガリーのバルトークが曲をつけたパントマイム劇「中国の不思議な役人」(1916年発表)がある。ナチスを逃れて米国に渡り、ハンガリー出身のエルンスト・ルビッチらと映画の仕事をした。戦後はイタリアに渡り、ローマ大賞を受賞した
小谷野敦[コヤノアツシ]
1962年、茨城県生まれ。東京大学文学部英文科卒。同大学院比較文学比較文化専攻博士課程修了、学術博士。作家・比較文学者。2002年に『聖母のいない国』でサントリー学芸賞受賞。著書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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qoop
7
黄禍論に基づき黄色人種への不安と不信を題材に取りつつ、それを乗り越える作劇に惹かれた。白人社会の価値観に擦り合わせた展開は通り一遍の感も強いが、それでも悲劇の中に融和を求めるラストは印象に残る。文化史の中で読むならともかく、黄禍論というタームに拘泥すべきではないのかも知れないとも思えた。差別のように普遍性のあるテーマと捉えつつ、当時のキャッチーさを踏まえながら読むのは難しいな、とあらためて感じる。また20世紀初頭の欧州日本人観としても興味深い。2021/12/18
きゅー
4
舞台は1911年のパリ。文学博士のニトベ・トケラモを含む日本人たちは、密使を受けてパリにいる。しかしトケラモはフランス人女性エレーヌを恋してしまう。彼女への愛と自分の使命に引き裂かれた彼は、過ちを犯す。本作は1909年に書かれた舞台脚本。ヨーロッパ各地で上演され人気を博したという。日本が日清戦争と日露戦争に勝利し、意気軒昂としていた時期に当たる。そしてまた、ヨーロッパでは「黄禍論」が唱えられ、中国や日本などのアジア民族が、ヨーロッパ白人にとって将来の脅威となるかもしれないと危惧されていた時代でもある。2024/05/28
nightowl
4
世界情勢がきな臭くなる中、パリ娘と恋に落ちた日本人の文学博士。彼女に翻弄された結果とんでもないことになり…黄禍論が蔓延る時代の流れを掴んで演劇にしたが故ヒットしたらしい。台詞に感動詞が多用されたり大事なことを賽子で決めていたり描写に微妙な部分があるにせよ、上手く日本人の特徴を捉えている方だと思う。それにしても、欧米人から下に見られる日本人というものをあからさまにされて何とも言えない歯痒さ。来日する外国人が日本人を褒め称えていても、当たり前とはいえ全ての外国人がそうした考えではないことを改めて気付かされる。2020/10/18
イコ
1
黄禍論中の日本を垣間見る事のできる作品。誇張はあるが外れていない感じはある。後進国から先進国へ行く者特有の、文化・技術の簒奪者だった日本は、今の中国を彷彿とさせる。2021/05/03
まどの一哉
1
国民が利己主義を捨て、国家のために犠牲となることを厭わない美しき民族。とてもじゃないが野蛮な西欧文明国家ではありえない特別な国。異国の中にあっても世界に目をふさぎ、日本スゴイの自己陶酔に酔いしれる。集団主義で精神主義。そんな日本人がまとまって登場。2020/09/14