出版社内容情報
原爆実験と少数民族弾圧の現代中国を告発する、謎の古写本。衝撃の問題作!
内容説明
マニ教教祖マーニーの聖なる預言が、1700年の闇を駆け抜け、20世紀中国の広大な沙漠に谺する!国家と民族の裂け目を鋭く穿つ、渾身の書き下ろし力作長篇。
著者等紹介
中野美代子[ナカノミヨコ]
1933年、札幌生まれ。北海道大学文学部卒。現在、北海道大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ちょろこ
133
これぞ物語、の一冊。好きな世界観。物語という砂漠を彷徨い、隊商に身を委ねるような時間は、これぞ物語、を味わえた時間。ある日、古文書に見つけた一つの言葉。そこから始まる時代も違う二組の双子が織りなす時空を超えた時の交わり。その都度、方角見失なう砂漠にいるように迷い惑わされるのがたまらない。そして、新疆ウイグル自治区、宗教、文化、シルクロード、原子爆弾と決して看過できない言葉を砂漠の中に見つけては心に拾わざるを得ない。幻想的なだけじゃない、さりげなく心に大切なことが水のように沁み込んでくる壮大な物語を堪能。2022/01/07
さつき
76
20世紀の新疆ウイグル自治区に住む博物館研究員のアブリムクと鉱山局技師のウスマンの双子の兄弟。アブリムクが古写本に疑いを持ったことから不可思議な世界の幕が開く。千年前にサマルカンドから隊商を組んで砂漠を越えて来たソグド人のワヌークとウィルカーク。二組の双子の物語が絡み合い侵食し合い時空がゆがんでいく。生々しく陰惨でありながら幻想的な筋立てにすっかり魅了されました。この幻惑の中にいつまでも浸っていたい。2021/12/29
りー
25
この本自体が精巧なフェイク古文書のよう。怪しい揺めきで時空を越え、9世紀のソグド人と現代のウイグルを繋いでいる。新疆ウイグル自治区の弾圧については日本でも小規模ながら報道がされているが、ロプノール湖周辺で住民を避難させることなく50回近くの地上・空中・地下核実験を行っていたというのには鳥肌が立った。人が人に対してこれほど迄に無法になれる事実。対して9世紀の描写では文化と文化の鬩ぎ合いのなかで新たな美が瑞々しく生まれ、また朽ちていく様子が伝わり、人の業について考えてしまった。2022/01/26
鷹図
15
博物館に勤めるウイグル人の青年が、9世紀頃の古文書に書かれた「原子爆弾」の文字を発見する。その直後、中国公安に拘束監禁され、学生時代の恩師と共に古文書解読の任を命ぜられる……。筋立てこそSF、ミステリー、あるいは純粋に冒険小説的だが、一読、通常の小説とは異なる文章作法を見るだろう。もっと面白く出来る題材だった、と不満を持つ人もいるだろうが、分かりやすいエンタメに落とし込まなかったことで、かえって神秘と幻想味を感得させられた気がする。まぁもちろん、ロケハンの勝利でもある。萩尾望都先生で漫画化希望。傑作。2013/04/15
凛
11
あまりにも傑作過ぎて今唖然としている。中井英夫→中野美代子→澁澤龍彦という系譜を示す人が居るのも納得。SFも冒険譚もミステリーもホラーも踏み込んでいるのにここ!というとこに踏み込み切らない、ある意味中途半端だが読後の得も知れない不思議な感覚は、この世界が隠し持つ神秘性と人々が夢想する幻想風景を体現しているからではないだろうか。また、現代ではあるが馴染みのない地域というのは下手なファンタジーよりもファンタジーであると感じた。東トルキスタン、新疆ウイグル自治区、10世紀と現代を行き来する本作は新鮮すぎて垂涎2013/04/20