内容説明
霊力をもち、ダキニ天や稲荷などと習合することで、徐々に信仰の対象となっていった狐。人びとはなにに期待し、どう利用したのか。諸史料を駆使し、狐観念の変遷を丹念に跡づける。
目次
第1章 古代人は狐をどう見たか
第2章 狐落としの呪法・「六字経法」
第3章 和様ダキニ天の誕生
第4章 結びつく辰狐とダキニ天
第5章 藤原氏の恩恵者
第6章 室町時代に頻発した“狐付き”
第7章 桂地蔵事件と中世の衆庶信仰
第8章 鳥羽上皇の寵妾と玉藻前伝承
第9章 安倍晴明の母を狐とする伝承
第10章 狐を利用し、狐に翻弄された戦国武将たち
著者等紹介
中村禎里[ナカムラテイリ]
1932年1月7日、東京都に生まれる。1958年東京都立大学生物学科卒業。同大大学院理学研究科生物学専攻博士課程修了。早稲田実業学校教諭を経て、1967年立正大学教養部講師。助教授、教授、1995年仏教学部教授。2002年定年退任、名誉教授。著書に『生命観の日本史 古代・中世篇』(日本エディタースクール出版部、2011年)ほか多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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owlsoul
9
古代日本のアニミズム的世界では様々な動物が神として扱われていた。狐は農耕神として民間信仰の対象とされていたが、中国の霊狐信仰、野干(ジャッカル)との混同などが影響したのか、人に取り憑く妖獣という側面を併せ持つ。その呪術的要素は密教と親和性が高く、狐は大日経に登場するダキニ天と習合し影響力を持った。密教者の修行場であった稲荷は、もともと農耕神信仰が盛んだったため、狐の勢力拡大とともにその農耕神も狐と習合し、稲荷は狐信仰の中心的役割を担うようになったという。無数の神々が入り乱れ複雑に絡み合う世界に圧倒された。2025/03/09
nemunomori
5
旧版で読了。新版の方が表紙が怖ろしげですね。日頃身近なお稲荷さんにここまでの変遷があったとは知りませんでした。2017/08/23
わ!
1
とても良い研究書だと思う。タイトルからすると、なんだか安易な本とも受け取られかねないが、こう言った日本史の研究をする上での、とても丁寧な姿勢が読み取れる一冊となっている。多くの丁寧に文献を読み込み、細かく解釈して、鳥瞰視点から私見を述べる。もちろん同様の研究が存在する場合は、その研究内容も列挙する。本当にこれぞ「歴史学者」が書いた本…というところだけでも面白い。2018/02/28
眉毛ごもら
1
狐について古代から中世までの狐との関わりについて。古代は意外に狐に興味がなかったらしく普通の動物扱い。平安時代中期以降から民間で狐が憑くなどの話が出、狐落としの呪法が作られ始める。祀られる方に関してはインド原産の吒枳尼天に習合し吒枳尼天は即位の儀式更に関わることになり地位が上昇稲荷とも蛇つながりで習合し狐の地位が出世していく。藤原鎌足や玉藻の前や安倍晴明伝説など狐伝説は発展戦国期には呪詛に使われたり作城の手伝いなど大活躍する。大典太が活躍した豪姫の狐憑きの病気のときに秀吉が稲荷大社を脅したのはさすがと。2020/11/03
えあどろっぷ
1
狐の神聖性がどのように確立され、利用されたかを紐解く。 歴史の文献を丁寧に検証しており、サクッと読むには重いが、要旨は章末に書かれているためそちらから参照するとわかりやすい。(正直、内容は飛ばし飛ばし読んだ) 8世紀頃から吉凶を予兆する存在として扱われ、各地の神や信仰と習合していく。 意外な話では、豊臣秀吉が伏見稲荷を取り潰すと脅しをかけたこと。有名なホトトギスの句からは想像できない過激さを併せ持っていた。2020/06/15