内容説明
地方の豪商・風間家に迫る不気味な悪意の影!相次ぐ使用人や家人の死には複雑な人間関係が生み出した底知れぬ闇が…。不思議小説、明朗小説で一世を風靡した著者が迫力の筆致で描くダーク・サスペンス!他に『卍の塔』『第三の影』のミステリ2長篇を収録。
著者等紹介
三橋一夫[ミツハシカズオ]
1908(明治41)年、神戸市生まれ。本名・敏夫。慶應義塾大学経済学部卒。在学中にヨーロッパに留学。40年ごろから「三田文学」や「文芸世紀」に創作を発表し、戦時中に『涙橋』『薔薇の細道』などの短篇集を刊行している。終戦後の48年、林房雄の紹介で「新青年」に「腹話術師」が掲載されてデビュー。不思議小説を継続的に発表する一方、50年代後半からは貸本向けのユーモア小説、明朗小説を精力的に刊行した。66年に創作の筆を折り、以後は独自の理論に基づいた健康法の著作に専念。95(平成9)年12月没
日下三蔵[クサカサンゾウ]
1968(昭和43)年、神奈川県生まれ。出版社勤務を経てミステリ・SF評論家、フリー編集者。著書に『日本SF全集・総解説』『ミステリ交差点』、編著に『天城一の密室犯罪学教程』(第五回本格ミステリ大賞評論・研究部門受賞)など多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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シガー&シュガー
16
表題作ほか二編。メロドラマ風「卍の塔」、痛快小説的「第三の影」、そして表題作「魔の淵」、どれも分かりやすい展開ながら得体の知れない迫力がある作品ばかり。大なり小なり現実が持つ残酷さの切っ先をひらめかせてくるので読後が奇妙に重い。特に表題作の後半、悪役が狂っていく描写はこれまでに読んだ事のない、一体何がこの奇妙な感覚のもとなのかが知れない摩訶不思議な恐ろしさがあった。三橋一夫自身が不思議な人物ではあったようで、おそらく作者の持つ深みと多様さによる味わいだと思うけれど私にとっては忘れがたい恐ろしい世界だった。2017/11/04
保山ひャン
2
「魔の淵」「卍の塔」「第三の影」収録。「魔の淵」は、金のことしか頭にない妾が君臨、世間体を気にするスケベ親父、妾仕込みの発狂寸前の息子、精神的虐待に耐える本妻の息子がおりなすロミオとジュリエット。「第三の影」は工員たちが住むめっちゃ治安の悪い場所で暮らす不良少年たちの悪に立ち向かう熱血青年。明朗小説的テンポのよさで読ませる。「卍の塔」は記憶喪失の夫と不倫の末くっついた妻とか。人間関係複雑なこときわまりない。これのみ再読。ミステリー仕立てのメロドラマ3作で、60年前の一般大衆の庶民感覚も知れて楽しい。2016/01/14
mnagami
1
探偵小説時代のサスペンスもの。奇妙な感じは短編集よりは少なめ。でもなかなか不思議な味わいがある一冊2017/03/11