感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
pohcho
58
オマーンの小説。井戸で溺死した母親のお腹から取り出された子ども。サーレム(無事)と名付けられた少年は、幼い頃より地中の水の音が聴こえるという不思議な力を持ち、それゆえに村人からは疎まれるが、やがて「水追い師」として各地をめぐるように・・。数奇な男の生涯を描いた物語だった 。詩的で幻想的なんだけど、実直さも感じられる。解説によると、オマーンは呪術が盛んな地域だそうで、自分からするとマジックリアリズムなんだけど、現地ではどう受け止められているのだろう?2025/07/19
buchipanda3
52
「お前は俺の渇望だ、お前は俺の水だ」。喉の渇き、水への渇望は生への渇望でもある。暑い季節での読書はその切望のリアルさをより感じた。著者はオマーン出身。かの地を思わせる乾いた土地、近代化前の風習や妖霊の存在と共にある村での暮らしが、寓話のようだが生身感ある人間の姿として活写され、特に冒頭の数奇な事態は息を呑むまもなくその世界に取り込まれた。そして一人の少年の大人への過程で経験した苦みや喜び、悲哀を見守り続けた。運命に囚われた者が開放を願い、生きるべくして生きることを渇望する。その思いが残す余情にただ浸った。2025/07/22
ベル@bell-zou
20
羊毛を紡ぐ妻の姿がそこにありますようにと祈る。水がもたらすもの。恵み、破壊、生と死。村人たちの嘲りと蔑みのなか男はただひたすらに水の声を聴きその道を探る。まだ貧しかった時代のオマーン。雨と乾きを繰り返す極端な気候。生前に母を亡くし自らの婚礼と相次ぎ父を喪う。まるで光と影。なんというコントラストだろう。神や精霊(ジン)への土着的信仰が薄暗い幻想の中を彷徨わせるようだが、水追い師が恋をした瞬間のきらめきが美しく印象に残る。詩的な文章で、とてもひきこまれる物語だった。2025/07/10
ねこねこ
5
すごくおもしろかった……けど、ちゃんと魅力やメッセージを理解できたのか分からない。夢中で読み終えてしまった。南部以外はほとんど雨が降らないというオマーン。水の存在感が日本に住む私の感覚とは全く違っていて、興味深いと同時に水を奪い合う戦争の時代が来たら……とも考えてしまう。登場人物たちの背景が少しずつ明かされて彼らの人生に触れられるのが好きだった。中でもワアリーとカーゼヤがとても魅力的。日本語訳が初の翻訳とのこと!アラビア語が読めなくても当作品に触れられるのは日本語読者だけ。両翻訳者さんと出版社さんに感謝!2025/05/10
19番ホール
4
アラブ小説国際賞をとったオマーン文学。水脈を聴くことのできる業を背負った「水追い師」の数奇な人生が描かれる。アラブ圏らしい描写がどれも素敵で、灌漑水路や精霊信仰なんかのカルチャーも面白かった。大きなネタバレ等もないので、解説から読むと文化背景が分かりやすそう。菊池寛の『恩讐の彼方に』を思い出すくだりもあった。2025/05/25