感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
90
「お前は俺の渇望だ、お前は俺の水だ」。喉の渇き、水への渇望は生への渇望でもある。暑い季節での読書はその切望のリアルさをより感じた。著者はオマーン出身。かの地を思わせる乾いた土地、近代化前の風習や妖霊の存在と共にある村での暮らしが、寓話のようだが生身感ある人間の姿として活写され、特に冒頭の数奇な事態は息を呑むまもなくその世界に取り込まれた。そして一人の少年の大人への過程で経験した苦みや喜び、悲哀を見守り続けた。運命に囚われた者が開放を願い、生きるべくして生きることを渇望する。その思いが残す余情にただ浸った。2025/07/22
pohcho
61
オマーンの小説。井戸で溺死した母親のお腹から取り出された子ども。サーレム(無事)と名付けられた少年は、幼い頃より地中の水の音が聴こえるという不思議な力を持ち、それゆえに村人からは疎まれるが、やがて「水追い師」として各地をめぐるように・・。数奇な男の生涯を描いた物語だった 。詩的で幻想的なんだけど、実直さも感じられる。解説によると、オマーンは呪術が盛んな地域だそうで、自分からするとマジックリアリズムなんだけど、現地ではどう受け止められているのだろう?2025/07/19
ベル@bell-zou
24
羊毛を紡ぐ妻の姿がそこにありますようにと祈る。水がもたらすもの。恵み、破壊、生と死。村人たちの嘲りと蔑みのなか男はただひたすらに水の声を聴きその道を探る。まだ貧しかった時代のオマーン。雨と乾きを繰り返す極端な気候。生前に母を亡くし自らの婚礼と相次ぎ父を喪う。まるで光と影。なんというコントラストだろう。神や精霊(ジン)への土着的信仰が薄暗い幻想の中を彷徨わせるようだが、水追い師が恋をした瞬間のきらめきが美しく印象に残る。詩的な文章で、とてもひきこまれる物語だった。2025/07/10
信兵衛
21
ストーリー自体にも惹きつけられますが、初めて読むオマーン人作家の小説とあって、そこに生きる人々の生活風景等が新鮮に感じられます。2025/07/29
ぽけっとももんが
17
まずはオマーンがどこにあるのかを確認するところから。アラビア半島の東にある国である。この国には地下水脈を利用したファラジという灌漑システムがあるという。井戸で溺死した母から生まれた少年は、水脈の音を聴くことができる。地下水路が枯れることは死活問題だ。ところがそれを商売にして稼いだり恩を売ったりしないんだなぁ、不思議なことに。詩のように綴られるサーレムや周りの人のエピソードの後の怒涛の展開に押し流された。オマーンの小説が読めるのってすごいことだと思う。2025/08/16