出版社内容情報
リアルにファンタジーが溶け出し、新たな世界へと導く山野辺太郎の真骨頂!
やわらかい言葉と適度なペーソスで、作者は奇想を真実に変える。「恐竜時代」とは、人を信じるための胸のくぼみに積み重ねられた、記憶の帯だ。私たちの心の地層の底にもそれは眠っていて、あなたに掘り起こされる日を静かに待っている。
――堀江敏幸
「恐竜時代の出来事のお話をぜひ聞かせていただきたい」。
ある日「世界オーラルヒストリー学会」から届いた一通の手紙には、こう記されていた。
少年時代に行方をくらました父が、かつてわたしに伝えた恐竜時代の記憶。語り継ぐ相手のいないまま中年となったわたしは、心のうちにしまい込んだ恐竜たちの物語――草食恐竜の男の子と肉食恐竜の男の子との間に芽生えた切ない感情の行方を、聴衆の前で語りはじめる。
食う者と食われる者、遺す者と遺される者のリレーのなかで繰り返される命の循環と記憶の伝承を描く長編小説。
表題作ほか、書き下ろし作品「最後のドッジボール」を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
梶
29
恐竜時代の、恐竜の子の物語が、現代の人間に語られるという種族と時代を超えた継承のなかに父から子へ、肉体から記憶への継承が入れ子になっていて面白い。穏やかに実直に訥々と、しかしユーモアとある種の洒脱さも通奏低音となった無二の語りであるように思える。 「最後のドッジボール」(書き下ろし)も傑作である。身体という物質が家族というつながりを改めて見せてくれる、それは輝かしいことである。幼時に亡くなった祖母が、仏間に安置されていたことを思い出し、「確たる色をもたずに湧きかけては流れていく自分の感情」が蘇ってきた。2024/10/20
❁Lei❁
19
同級生のおすすめ。今となっては中年のおじさんである主人公が、少年時代に父から聞かされた恐竜の話を、いま再び口承によって後世に伝えようとする物語。それは、草食恐竜であるブラキオサウルスの親子の交流や、肉食恐竜アロサウルスとの恋愛や友情をめぐるお話なのでした。本当に太古の恐竜時代にタイムスリップしてしまったような臨場感がありつつ、食物連鎖によってその〈生命〉が現代にまで脈々と続いていることを感じられる壮大な作品になっています。食べる/食べられるという関係の、究極のロマンとエロチシズムをも堪能しつつ読了。2024/11/02
to boy
16
代々父親から語り継がれてきた恐竜の話をもはや語り継ぐ家族のいない主人公がある講演で語ると言う設定。肉食竜と草食竜の子供達の恋の行方がどうなるのかと思いきや、意外と簡単でちょっと肩透かし。話全体もなにか物足りない感じで私には合わなかった。2024/06/17
つきみ
6
弱肉強食という切ない自然の摂理と友情という感情のシーソーを描いている。ほっこりとした世界観ゆえ読みやすいが、家族関係も含めて感情の整理が難しい。良作、おすすめです。2025/01/03
vodka
3
なんだか不思議な読後感でした。ブラキオサウルスに思いを馳せて、ソテツの花の香りをかぎたくなりました。最後の場面はちょっと切ない。2024/12/10