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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
107
「人間にはどこかおかしなところがあるものよ。ひょっとしたら人間はみんな狂っていて、あなただけがまともなのかも」。不思議な愛おしさに包まれる読み心地を味わえた作品集だった。つい次の篇へ次の篇へと物語を読み耽ってしまう感覚。少女時代の無分別な無邪気さ、それは大人の目から見た世界へ変化し、やがて戦争のやるせない現実が覆いかぶさる。日常の中で見せる人間の機微、滑稽さ、そして人生って奴のどうしようもない切なさ。それでも子育てと執筆の話に著者の姿が垣間見えるように人を描写する歓びが伝わってきてそれが魅力に感じられた。2024/06/13
天の川
58
表題はミステリーを想起させたが、実に魅力的な短編集だった。『少女時代の思い出』では不遜で瑞々しい感性の子ども達に懐かしさや憧れを抱き、『大人の生活』ではちょっと変わった大人達の戸惑いや行動に可笑しみを感じた。そして『戦争の影』でのオーストリアの作家ならではの目線で描かれる無力感や戦争の残酷さ。人生を歩む中でいつの間にか背負わされていく重さを、様々なシチュエーションで描き出す滋味深い一冊。学校に呼び出された父にぶたれると怯えながら過ごした一日の終わりに、父の大きな愛情に触れた「さくらんぼ」が特に心に残った。2024/08/18
M H
24
「壁」がとても気になるも入手できずこちらを。瑞々しい少女時代から大人の生活、最後は戦争の影。表題作や「とりわけ奇妙な愛の物語」のような人間の不可解な側面を見据えた収録作が通り過ぎてしまいそうで、塞がることのない穴を感じさせて特に良かった。戦争が題材になると重苦しさが漂い、掉尾を飾る「もろびと声あげ」の余韻につながる。2025/01/27
kero385
20
お気に入りに登録させていただいている方の感想で知った本。10ページ前後、長くても20ページに満たない掌編と言っていい長さの作品を集めた短編集。文体も短く簡潔であるにもかかわらず、人生の一齣の何気ない出来事が、大きな意味を予感させる含みを持って描写される。長年ドイツ語圏の小説読んできたけど、はじめて知った作家。と言うよりドイツ語圏の女性作家あまり知らなかったかも。知っている女性作家は政治的イデオロギーが強烈な方達ばかりで、この短編集のような味わいはすくなかった(もっとも私が読んでる数が少ないのだが)。2025/01/11
くさてる
19
1920年生まれのオーストリア作家による短編集。題名でホラーかミステリだと思って手に取ったら、牧歌的な少女時代の思い出話が続き、意外。でもそれが読み心地良く楽しんでいたら、大人になり、戦時中へと舞台が移り替わってゆく。読み応え自体は変わらないものの、苦しい思い出の箇所はせつなく、胸が痛んだ。柔らかく、美しい文で綴られた、良い短編集です。2024/07/24