内容説明
散歩を愛し、猫と一緒に暮らす詩人ハン・ジョンウォンが綴るエッセイ。雪の降る日や澄んだ明け方に、ひとり静かに読みたい珠玉の25編。
目次
宇宙よりもっと大きな
寒い季節の始まりを信じてみよう
散策が詩になるとき
幸せを信じますか
11月のフーガ
悲しみ、咳をする存在
果物がまるいのは
夏に似た愛
心のかぎりを尽くして来たから
永遠の中の一日
海から海のあいだに
なにも知りません
よく歩き、よく転びます
国境を越えること
みんなきれいなのに、私だけカンガルー
ひと晩のうちにも冬はやってくる
夢とおなじ材料でできている
夕暮れただけ
窓が一つあれば十分
灰色のカ
真実はゆっくりとまぶしくなければ
猫は花の中に
いくつかの丘と、一点の雲
今日はわたしに、明日はあなたに
彼女の歩く姿は美しい(送らない手紙)
著者等紹介
ハンジョンウォン[ハンジョンウォン]
大学で詩と映画を学んだ。修道者としての人生を歩みたかったが叶わず、今は老いた猫と静かに暮らしている
橋本智保[ハシモトチホ]
1972年生まれ。東京外国語大学朝鮮語科を経て、ソウル大学国語国文学科修士課程修了(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
カフカ
52
韓国の詩人、ハン・ジョンウォンによる詩とエッセイ。素晴らしい本だった。散歩を愛する著者の言葉ひとつひとつが心に染み渡る。「取るに足らぬものなど一つない、と思う心が詩」とはまさに、と。わたしもいつでも心に、取るに足らない些細なものを慈しんで留めておきたい。そしていつでも自分の中に陽だまりを持って、ぬくもりを感じていたい。きっとそうすれば、日常で辛いことがあってもそれに支配されることなく過ごせるのだろうな。これから苦しくなった時は何度もこの本を開こうと思う。2023/11/29
アナクマ
30
詩と掌編の中間の物量、儚さと繊細さをまとった、散歩のおりの着想と追憶の文集。◉「人間には百年も使える心はない」「簡単には見つからない(が)自分だけの詩語が喪失感を慰めてくれる」「日陰にいながら、自分だけの陽だまりがあることを知っている人」「自分の名前が広く知られなくても存在は消えやしないと思っている人」◉そこかしこに〈ひとり感〉を感じるわけですが、作者の弁「詩だけでなく、この世界を形作っている真心や真実も〈間〉にあるのではないかと思います」のとおり、自分と世界、自己と他者の間に潜むものに触れる作品集です。2024/09/27
かもめ通信
28
Twitterで見かけた表紙に一目惚れして、発売前から版元に予約して入手したのは、韓国の詩人ハン・ジョンウォンさんのエッセイ集。読み終えたくなくて、何度も同じ箇所を読み返したりしながら、ゆっくりと頁をめくってきたものの、ついに最後まで行き着いてしまった。でもきっとこれからは、散歩に出るたび、詩人の言葉を思い出し、折々に本を開くことになるだろう。そんな予感がする。 2023/03/21
かりさ
26
真夜中に舞う雪の結晶が朝の幻想の光を受けてきらめくように、凛と清らかで静謐でふわりと優しい。散歩を愛し、詩を愛し、季節の訪れや移り変わりをつぶさに綴る。私の感性に呼応し寄り添う言葉たち。大切に大切に読みました。惹き寄せられるように出会った『詩と散策』は冒頭から美しく、紡がれる情景や季節の移り変わり、出会った人々、散りばめられる詩たちがとても心地よく私の人生の大切な1冊に。フェルナンド・ペソア、シモーヌ・ヴェイユ、エミリー・ディキンソン、シルヴィア・プラス、ボルヘスの詩が印象的でした。2023/03/12
アオイトリ
24
せっかくの旅先で雨に降りこめられ、さて、さてと趣味のよい書店に逃げ込み、見つけた一冊。少し人間が嫌んなってひとり時間を贅沢に過ごすには良い相棒でした。彼女が大切にしてきた詩の数々と、散歩者としてみた世界観。冬には「冬の心を持たなければならない」(スティーブンス)春の心で冬を見ると、冬はただ寒くて悲惨で虚しくて、早く去ってほしいだけの季節だ。しかし、どんなに急かされようと!冬は自分の時間をまっとうしてからでないと退かない。心に残るフレーズです。韓国らしい繊細で美しい本です。2023/06/16