内容説明
末期がんで苦しむ母の看病、妻との離婚を目前にし、幼いころの父の死が亡霊のように付きまとうヨンム。夫とはすれ違い、愛を渇望するも満たされず、若い男とのひとときの恋に走るヨンムの妻・ヨジン。貧困の連鎖から逃れられず、社会に出てもバイトを転々とし、恋人との環境の違いに悩むヨンムの部下ソジョンの物語とが交錯する。「甘ったるい春夜の空気を物悲しく」感じる人々のストーリーは不幸という共通分母の中で一つになり、三人の人物が感じる「静かにうごめく喪失感」が小説の根底に流れている。それぞれがその喪失感を乗り越え、成長していく四月の物語を、やさしい視点で描き出す。
著者等紹介
ソユミ[ソユミ]
徐柳美。1975年ソウル生まれ。2007年「ファンタスティック蟻地獄」で文学手帳作家賞、同年「クールに一歩」で第1回チャンビ長編小説賞を受賞しデビュー。都市に暮らす人々の孤独や葛藤を温かい眼差しで繊細に描く韓国を代表する女性作家
金みんじょん[キムミンジョン]
ソウル生まれ、東京育ち。10代で来日し、KBSラジオや京郷新聞などを通して日本のニュースを紹介し、また日本文化を韓国に伝える活動をしている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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かもめ通信
18
ぜひとも追いかけていきたいと思っている書肆侃侃房の韓国女性文学シリーズの最新刊を、書評サイト本が好き!を通じて頂いた。この物語の主な登場人物は三人で、それぞれが交錯しながら、三人三様の春が描かれている。春は別れの季節だなんて、言い出したのは誰だったのか。桜の花が咲き始める。それは確かに終わりの始まりだったかもしれない。だが花が散ったその後に、始まるものも確かにあった。2022/11/08
星落秋風五丈原
15
三者三様の終わっていく話でした。2022/11/23
Jessica
5
寝る前に読み初めて、読んだら朝起きられなくなるだろうなと思ったら案の定起きられませんでした😂 ものすごく曖昧で独特でブルーグレーみたいな本です。(表紙もそうであって欲しかった。) 私は終わりから始まりまでの過程は、多分悲しみや後悔、失望、屈辱のような細かい塵を箒で掃き出すようなことだと思うのですが、この本ではまだ箒を持ってすらいない人が多かったことが気になって… 読んでいるこちらも登場人物も救われず、結構痛みが残りました。2023/06/04
三日月
5
ヨジンとその妻ヨジン、部下のソジョン。3人のそれぞれの別れの話。 全体的に淡々と特に大きな出来事もなく進んでいく。 読後感は悪くないけど静かすぎて少し物足りなかった。 結末を知った上でもう一度ゆっくりと読み返したい。2022/12/17
うさえ
2
季節は春。別れと出会いの時だから、この物語にふさわしい。3人の登場人物それぞれの「終わりの始まり」が描かれていて、読みながら切なくなる。懸命に生きているのに、なぜか大切なものが指の間からこぼれ落ちてしまう。誰かを責められれば楽だけど、本当はその人のせいじゃないことを自分が一番わかっている。泣いて寝て、また起きて、また泣いて寝て…そうやって人は歩いていくしかない。「終わり」は「始まり」でもあるのだ。2023/01/15