出版社内容情報
幻の心臓が鳴りやまない
燃えやすくて凍りやすい感情に居場所を与える。
今ここに生きるために。未来を確かめるために。
────東 直子
【著者プロフィール】
櫻井朋子(さくらい・ともこ)
1992年生まれ。
2017年、新聞歌壇に投稿を始める。
同年、東京歌壇(東京新聞・東直子選歌欄)年間賞。
【5首】
母さんの自作だったと後に知るお伽話で燃えていた町
くるぶしは小さな果実 夕闇に熟れゆくきみを起こせずにいる
あの女も使ったかなぁ出汁巻のうずに差し込む基礎体温計
一歩ずつ脱ぎ捨てていくサンダルのごときクリップ海に焦がれて
枯れるのも咲くのも花の意志ならばわたしの体はだれの福音
新鋭短歌シリーズ
今、若い歌人たちは、どこにいるのだろう。どんな歌が詠まれているのだろう。今、実に多くの若者が現代短歌に集まっている。同人誌、学生短歌、さらにはTwitterまで短歌の場は、爆発的に広がっている。文学フリマのブースには、若者が溢れている。そればかりではない。伝統的な短歌結社も動き始めている。現代短歌は実におもしろい。表現の現在がここにある。「新鋭短歌シリーズ」は、今を詠う歌人のエッセンスを届ける。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
あや
10
櫻井朋子さんは大学が同じなのだがおそらく私が大学4年の時にお生まれになったアラサーの歌人さん。とくにご結婚と妊娠を詠んだ歌とあとがきが良かった。東直子さんのあとがきもいい。大学周辺の飯田橋や有楽町線といった地名も私には親しみがある。 こときれたようにまっすぐ眠り合う互いの熱を過信しながら/半睡のシーツにとおく隣人の争う声が染み込んでいく/忘れ傘すなおに揺れる江ノ電は潮の気配に影を伸ばして/硝子店の棚を大事にすり抜けてわたしのための暖冬をゆく2022/05/04
新谷 華央里
6
若い女性が通過するであろう一過性のことを詠んだ歌が多いけど、青臭くなく、甘くなりすぎず洒脱で、センスに溢れている。独自性が光るけど、私も確かにこの感情を経験したと思わせられるような切実さも含まれている。全体的に好きな歌が多いけど、強烈に印象付けられる、これ!という歌はなく。どの歌も似たりよったりというか、手法が一辺倒(他の方の感想で、「取り合わせが多くて飽きる」というのがあって同感)なのが少し残念。2023/03/28
ケー
5
初めて通読した歌集。 表紙の疲れてるような、色っぽいような雰囲気に惹かれて購入した覚えが。 特にお気に入りだったのは「コハク」の章。 ひとつひとつグッとくる歌ばかり。2022/12/04
みかん
5
一首目がすごくよかった。あとは、読まれている事物と感情の結びつけが私のなかでうまくいかず。修行したい。2022/02/20
amhon
5
表紙に惹かれて購入。短歌集を読むのは、萩原慎一郎「滑走路」以来。女性ならではの視点を持った短歌だと思いました。「あの女も使ったかなぁ出汁巻のうずに差し込む基礎体温計」「かわらないかわらないって言い交わす同級生の睫毛にほこり」「アラームへ伸ばした腕がきみにさえ触れない朝の永い背泳ぎ」「とっておきの展示のようにほの光る鎖骨をあえかな夜の標に」一番好きなのは「こときれたようにまっすぐねむりあう互いの熱を過信しながら」かな。新鋭短歌シリーズの他の作品も読んでみようと思います。2022/02/27