内容説明
大学の友人サクマの帰省に同行したぼくは、そこで幽霊と暮らす奇妙な村人たちと出会う…(『幽霊番』)。女性だけの村で育った卯月と、「騙されちゃ、だめよ」と云い、突然いなくなってしまったハルカ。サナさんの秘密の儀式を偶然目撃した卯月は、自分の知らない世界があることに気づいてしまう…(『レースの村』)。夫との関係はいつも少しずれていると感じる杏子はバイト先の店長とのふとしたはずみで起こった出来事により…(『空まわりの観覧車』)。透明になった犬の夢二、病気がちで寝たきりの姉綾子とともに過ごす日々はあの雪の日のように儚い…(『透明になった犬の話』)。「ことばと」掲載の表題作を含む4編を収録。
著者等紹介
片島麦子[カタシマムギコ]
1972年広島県生まれ。小説家。著書に『中指の魔法』(講談社)、『銀杏アパート』『想いであずかり処にじや質店』(ポプラ社)がある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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のっち♬
122
綻びのできたレースのように、繊細で不可思議な世界を紡ぎ出した短編4篇。『幽霊番』は背徳感に駆られる語りと不穏な演出の妙が光る怪談、求心力は本書で一番だろう。「納得は不要」な女だけの村を描いた表題作は、主人公のフラストレーションの背後に著者の乾き切った冷笑を感じる。唯一の日常譚『空まわりの観覧車』も然りだが、こちらは屈託のない言葉遊びが印象的。幽霊と対照的なアプローチで超常現象を扱った『透明になった犬の話』は透明感と優しさに満ちた話で、閉めに相応しい幕切れ。シュールでもどこかノスタルジックで風情のある一冊。2022/02/12
konoha
59
好みが分かれる本だとは思うが、とても好きだった。夢と現実の間を書いた物語に柔らかく淡々とした文章が合う。男子大学生が同級生の帰省先で幽霊に出会う「幽霊番」は、閉鎖的な村の描写が面白い。15年連れ添った夫婦の「空まわりの観覧車」は1番現実的。「透明になった犬の話」は「姉妹だけに見える犬」という設定が効いていて物語のラストも良い。怖くないホラー、ファンタジー。文章は心地良いのになぜかゾクっとする。優れた観察力から生まれる描写、独特の世界観が魅力的な作家。他の作品も読んでみたい。2022/02/27
はる
53
装丁とamazonの紹介文に魅かれて読みましたが、思っていたのとは少し違う感じ。4つの短編それぞれが全く趣が異なるので、1冊の本としての感想は書きにくい。強いて言うなら、どの作品も作者の死生観が透けて見える感じかなあ。最後の「透明になった犬の話」が一番のお気に入り。切なくも温かい読後感で、文章も凄くいい。これだけでも良かったかも笑。2021/10/08
ベーグルグル (感想、本登録のみ)
48
4つの短編集。タイトルと装丁が気になり手に取りました。ファンタジーのような、ホラーのような不思議な世界観のある作品たち。現実と空想の世界の狭間のような雰囲気でしたが、どうなるのかと読ませる文章が良かった。他の作品も気になります。2021/10/31
かもめ通信
24
書評サイト本が好き!を通じての頂き物。4つの作品を収録した短編集。学生たちの希薄な関係と、田舎の村の人たちの奇妙な連帯感。女たちが女であるが故に直面する様々な問題。夫婦の微妙なすれ違いなど、ありがちな、ありふれた世界を描いているようでいて、故意に軸をずらして、物事を斜め横からも眺めてみたらと薦めるような、ちょっと変わった読み心地。作者が見据えるこの先に、どんな世界が広がっていくのかも気になるところ。今後の作品が楽しみな作家に出会った。2021/06/10