目次
それより空のふかみどり
とほき祖鳥も
昼は日ぐらし
これの世に
此処は未完のものがたり
書物のなかはからさわぎ
玲にして瓏
わすれられただいじな
さざなみ軍記
おやくそく〔ほか〕
著者等紹介
笹原玉子[ササハラタマコ]
1948年生まれ。「玲瓏」会員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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いやしの本棚
19
最高オブ最高。軽みがあって、主体と客体の輪郭が淡い(って佐藤弓生さんが栞文に書いていらした)ので、しんどい時でもするする読めるし、歌が入ってきやすいし歌の中に入りやすい。出入り自由。そして妄想が爆発する。みんなで爆発しよう。「みづうみのなかに小さき墓地ありきいづれの世にか呼ばむ「東京」」「まだことば生まれぬまへに祈りはあつた綺羅めく空に膝を折りし日」「これの世に見えないものは隠せない。偶然、この官能的なもの」…官能的って、こういう歌を読んでうっとりすることだよね。(そうなの?)2020/06/18
rinakko
10
再読。〈ゆめみどり蝶の古名がひらひらとみどりのゆめかゆめのみどりか〉〈紫陽花が花のふりする私も雨のふりするゆめ語るなよゆめ〉〈祈りの言葉はまういらない今日は綺麗な藻屑となつてゐるゆゑに〉〈ちよろづのやすらはぬ夢喰べるてふ獏もおのれの夢にたべられ〉〈しんしんと眠るは故宮、降るはときじく、書物のなかはからさわぎ〉〈ヒアシンスてふ名前が好きです花よりも。秋をひんやり折りたたみ〉〈晴れながらぬれてゆくやうな五月なら冬の書物を捨ててもよいぞ〉〈幽閉の王妃のごとくたはぶれに鎮石(しづし)放らば世紀は暮れる〉2021/05/12
双海(ふたみ)
8
塚本邦雄の歌とともに歩いた歌人のいま。23年ぶりの第3歌集。「笹原玉子が塚本邦雄や山中智恵子を強烈に慕うのも、その中にある「とてつもない孤独の空洞」を見いだし、共鳴したからにちがいない。美を選択することは、世界の果てに独り立つことなのだ。」(林和清) 「きさらぎの指にて触るる耳といふもつとも古代のにひほへるところ」「まるでひとつの祈りのやうにそこにあること三つ脚の椅子」2023/09/30
アイカワ
3
氷売りが扇売りとすれちがふ橋たつたそれだけの推理小説/癒えぬうちまた瑕負うるパレスチナ受肉ひそかに育ちつつあり/革命も革命ごっこも遥かなりうすくうすく梨を切る夜/棚のなか隠れてゐたのは精霊ひとさしゆびをくちびるにあて/これの世に見えないものは隠せない。偶然、この官能的なもの/ふるさとで綺麗な着物をきて生きる おほよそのことはあとのゆふぐれ/「掛け算は好きですよ、わけてもゼロは」嵐の夜の客人と話がはづむ/夏眠のあとでねむれぬ夜がまつてゐた巻いても巻いてもネヂはもどつた 速い。氷売り~はけっこう憧れ。2023/04/02
yumicomachi
3
「玲瓏」会員の著者第三歌集。抽象的でわたしには難解な歌も多かったが、それも含めてすべてがうつくしく魅力的。以下に挙げるとくに惹かれた歌たちは、比較的やわらかで平易なものかもしれない。〈きさらぎの指にて触るる耳といふもつとも古代の匂へるところ〉〈お嬢さん、今宵つくうそはみづいろ。こころはいつもからにしてをく〉〈いつせいに暦が走り水も木も花も少女も四月に負ける〉〈原子と分母とほんのすこしの思ひ出でできてゐるのが桜です〉。林和清、佐藤弓生、石川美南による栞文も読み応えがあった。2020年4月刊行。378首収録。2020/10/25