目次
1(夜に沈む;冬の裏;空山のさかひ ほか)
2(劫初;デミアン;村に火をつける ほか)
3(祖父の眼鏡;きりぎしの夜;傷兵 ほか)
著者等紹介
楠誓英[クスノキセイエイ]
1983年神戸市生まれ。2013年第1回現代短歌社賞受賞。2014年第40回現代歌人集会賞受賞。第一歌集『青昏抄』(現代短歌社、2014年)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
258
強い表象を主張するようなタイトルである。題して『禽眼圖』。禽は猛禽類、あるいは禽獣の禽である。すなわち、鳥のことだが、この字体からは獰猛なそれを連想する。圖 もまた、あえて旧字体である。歌は塚本邦雄を思わせないでもない。例えば「灯の下にとりどりのパン集まりて神の十指のごとく黄昏」。ただし、爛熟に向かうには若い。往往にして自意識が表層に浮かび出てしまうのである。そうはいっても、同世代の中では抜きんでた存在ではないかと思われる。本書は第2歌集のようだが、今後はどんな風に展開していくのだろうか。2024/05/25
かふ
21
大震災と言っても阪神・淡路大震災で肉親(たぶん兄)を亡くして父親から兄代わりに期待をかけられたプレッシャーの中、闇の中を彷徨い続けた日々の短歌。あとがきに、復興された神戸は、清潔感漂う白い家が並ぶ。復興できずに去って行った人もいたであろう空き地がぽつんとあるという。そんなところを照らしていて電柱と一本の樹(ベケットの舞台か?)。2021/03/12
qoop
8
昼の景色に暗い世界を二重写しで見ているのか、見ようとしているのか。地に足をつけつつなお浮遊するような、いや地に潜行してしまうかのような視野のずれが感じられる。阪神淡路大震災を経験し兄を失った著者の世界は安定を欠き、不整合のままバランスをとっているのか。/跳ねてゐる金魚がしだいに汚れゆく大地震(おほなゐ)の朝くりかへしみる/事故の日に謝罪の放送ながれをり通勤人の鼻梁はしづむ/帰らざるひとの声かと振り向くと一体のスワンボートうなづく/をしろひのやうにも見ゆる敦盛の首塚につく塩ほの白し2021/10/25
Cell 44
4
「黒スーツの男が集ひて夜になりランプのやうに家々灯る」「青銅の腕に抱かるる一瞬の暗さのありて湖は暮れたり」「水の面に届きさうでゐて届かぬを桜の梢は兄をしめして」「あの時に結婚したらゐるだらう子が駆け抜けてひかりの団地」「鞄のなか昨日の雨に冷ゆる傘つかみぬ死者の腕のごとしも」2021/04/15
多聞
4
蝶はてふ、人はひとにて生まれきて触れえぬことをさびしさがいふ/日照雨のなか乱れて光に消えし蝶まなうらにかげ揺らめいてゐる/五月雨にワイシャツ透けて青白い痩軀のきみよ禽の眼をして/生くること死なざることの違いなどいくども浮かび沈むカイツブリ/心病む弟ひそかに息づきて灯りの消えぬただひとつの窓/手向けたる花はしづみてみちのくの海溝の死者の眼窩にひらく2020/01/21