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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
265
吉川宏志の第8歌集。吉川は名門の歌誌「塔」※の主宰を務める実力者。数々の短歌賞を受賞し、輝かしい実績を持つ。ただ、上手すぎるために表面的には幾分感情表現に乏しく見えかねない。例えば、母を亡くした一連の歌、中では最も悲痛さが表出された「お母さん、息をしてよとぴたぴたと頬を打てども息は消えたり」。斎藤茂吉の連作歌『死にたまふ母』と比べるのはおかしいのだが、どうしても連想してしまう。直接母の死とは結びつかないが「早春の道に小さく足縮め花より先に死にし蜜蜂」など、死を生との連続の中に見る歌も多い。2024/06/14
tototousenn@超多忙につき、読書冬眠中。
102
☆2.0 第70回 芸術選奨文部科学大臣賞 第31回 齋藤茂吉短歌文学賞 ダブル受賞!の歌集ですが、 私の心の版木には、 この歌人の押し当てるバレンが届かないのです。 亡くなった母親の火葬場での骨拾いを歌った数首だけでした、圧を感じたのは。 350首を収録しています。 2021/04/08
kaoru
15
吉川宏志氏の第8歌集。最後に母の死を歌った連作があり、長男が独立して家を出るなど月日の流れを感じさせる歌が多い。沖縄への関心やフェミニズムへの理解など同時代を生きる歌人として親近感を抱かされる。技巧に優れ教養も備えているが、端正さに安住することなく世界を深めていってほしい。「他国から見れば静かな的として原発ありや雪ふる浜に」「鳥たちはどこにひそみているならむ空を割りつつ雷が近づく」「水べりを妻とあゆみて梅花藻に浮き花のあり沈み花あり」「バラの花渦ふかぶかと描かれおり母の絵はみな母を喪う」2020/01/17
おはぎ
8
新年度NHK短歌の選者ということで、はじめてこの先生の歌集を手に取った。「パスワード******と映りいてその花の名は吾のみが知る」「食べることのできない人に贈るため花はあるのか初めておもう」2023/03/28
門哉 彗遙
7
歌人はどの人も自分のファインダーをもっていて、場面場面の切り取りかた、質感、色合い、焦点がオリジナリティに溢れている。決して既視感のあるものはなく、いつも新鮮だ。吉川宏志さんももちろんで、いつも歌の前に佇んで、自分自身がほぐされていくのを感じる。 ーー 菊の花括られている冬の道にんげんならば縊死のかたちに ーー 自販機のなかに汁粉のむらさきの缶あり僧侶が混じれるごとく ーー ひいやりと喉落ちる酒 亡き友を語りつつ若き日の我に遇う ーー 2025/07/06