目次
島時間
光と影
自由移民
停電の夜に
錆びてゆく
一回休み
TOKYO
秘祭
夜の舌
寒き魂〔ほか〕
著者等紹介
松村由利子[マツムラユリコ]
1960年福岡生まれ。朝日新聞、毎日新聞で記者として20年余働いた後、2006年からフリーランスに。「かりん」所属(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
258
本書は松村由利子の第4歌集にあたるが、石垣島移住後の歌群が収録されている。彼女はかつて20年にわたって新聞記者として働いたようだが、歌集にも社会的関心の高さが随所に表れている。例えば巻頭歌「時に応じて断ち落とされるパンの耳沖縄という耳の焦げ色」。彼女の詠う沖縄は、歴史的・社会的な意味合いばかりではない。例えば「左右より歌声湧きて谺せり島の神々ついに現れ」のような神の島、沖縄も詠うのである。用いられる言葉はいずれも平易だが、歌の訴求力は高い。2024/05/28
てくてく
8
石垣島に移り住んでからの歌をまとめた歌集。社会問題、沖縄という場所、そして女性に関する歌が印象に残った。「東京のお菓子をあげて生みたての玉子もらいぬ 恥ずかしくなる」「太りてはならず老いてはならずという禁止ばかりの女の一生」「みなテロと断じる時代かつてそれは抵抗と呼ばれしものを」2017/10/28
Kaoru Murata
7
石垣島に移住した作者が見聞きした南の島の暮らしを存分に詠いあげている。 /若者は世界の終わり見るように海へと沈む夕日見にゆく/道化師の朝のあかるさ素顔などなかったもののように塗り込め/月のない夜の浜辺へ下りてゆくたましい濡らす水を汲むため/耳ふたひら海へ流しにゆく月夜 鯨のうたを聞かせんとして/種を持たぬ果実の甘さ思わせるやさしい人の淡きかなしみ/とおい昔の誰かの涙この雨はやがて海へと還る旅路の/巡り来る季節をいくつ重ねても飼い馴らされぬもの潜む森/雨降れば馬も私も濡れること添うというのはよき覚悟なり2015/05/20
yumicomachi
6
2015年4月刊。2010年の春に沖縄・石垣島に移住した著者の、その地の自然や風俗、そこから見える日本や世界の不条理、自らの恋や身体感覚を繊細かつ力強く歌った歌集。〈時に応じて断ち落とされるパンの耳沖縄という耳の焦げ色〉〈ハイビスカスくくと笑いぬ東京と米国ばかり見ているメディア〉〈耳ふたひら海へ流しにゆく月夜 鯨のうたを聞かせんとして〉〈何かこうふわふわの菓子欲しくなるように恋せり年下の人〉〈面倒な外来種だと思われているのだろうかクジャクもわれも〉2019/04/11
Cell 44
5
「耳ふたひら海へ流しにゆく月夜 鯨のうたを聞かせんとして」「石は石を産むことあらず水底の沈思となりて冷えびえとあり」「何かこうふわふわの菓子欲しくなるように恋せり年下の人」「あの夏をみんな忘れたのでしょうか雪の降らない島のかなしみ」「集合写真に小さく円く穿たれた一人のような沖縄 今も」一読して目立つのは沖縄の風土や社会的な苦しみを詠んだ歌だが鹿や石、水、卵などひとつのモチーフを変奏する連作にも巧みな歌が多い。社会詠では引用したものや、「『源氏五十四帖題詠』嫋々と原発五十四基のはかなさ」などが目を引いた。2016/01/28