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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おくちゃん👶柳緑花紅
112
一冊の本との出会いは往々にして偶然が大きく作用する。訳者の解説の中の一文にこう書かれていた。読書メーターに登録していなければ、私は決してこの作品に触れることはなかっただろう。読みはじめて、最初に戻り私は声を出して朗読した。最後のページまで。心は静かで景色が気配が小さな音が私を包む。けれど一貫して私の心臓は大きな鼓動を苦しくなるほどの鼓動を響かせていた。次は朗読ではなく目を閉じて読んでみたい。2016/03/25
あも
85
本書の評価はハッキリ分かれるだろう。誰かは黄色い雨に溶かされる死の影の陰鬱さ、朽ちていく美しさに心を搦め捕られるだろう。また他の誰かは脳内に?を踊らせながら一向に響いてこない描写と必死に格闘するだろう。私は残念ながら後者だろう。語尾が全部~だろう。で終わるのに耐えきれず、ぶん投げたくなっただろう。だろう攻めが終わったと思ったら、ラストでまた復活して頭がおかしくなりそうだっただろう。このレビューを読んだあなたは本書を決して読みたいとは思わないだろう。素晴らしいレビューが沢山あるからそちらを見るといいだろう。2019/01/18
nobi
76
一軒また一軒と離村し去った家族は亡霊として「私」を苛む。「私」の傍で死と亡霊と冷気と空腹とを唯一共有するのは名付けられていない雌犬。自然は恵みを齎すよりは、荒れ狂うかハリエニシダと錆で侵食する。月は冷たさの象徴として喪失を照らす。聞いてもらえる当てのない独白。この寂寥感無力感の積み重なる救いのない叙述は、しかしどうして私を離さないのか。なぜ私を引き込むのか。読み終えてまた冒頭の章に戻る。違和感のあった「だろう」が痛切に響いてくる。崩れ行く世界を紡ぐ「私」の言葉だけは、独り敢然とその驕慢の前に屹立している。2017/02/25
yn1951jp
71
彼はすでに肉体を離れている。彼と死者たちの記憶が、黄色い雨が降り続く、打ち捨てられた村を彷徨している。妻の死、家族や村人との別れ、彼に付き添うみすぼらしい雌犬。喪失、孤独、絶望。時間は、降りつもる朽葉、流れる川、吹きすさぶ風となって、時折燃え返す焚火のような記憶を忘却の彼方へ葬り去ってゆく。「私が死んだら、何が残るだろう…死は甘美な安らぎ、いや、自分が待ち望んでいたものとして私の目の前にある」一人の男の死を廃村の消滅にかさね、透明な美しさで描きだす。私も最期にはこのように死者たちに迎えられたい、と思った。2015/07/05
zirou1984
70
時々思うことがある。私たちは死に向かって生きているのではなく、むしろ死の中を泳ぐように生きているだけではないのかと。一人またひとりと村人が去っていき、孤独に生きる老人から漏れる言葉は静寂と寄り添い、哀しみと共に零れ落ちている。追憶と忘却、孤独の影から湧き出る死者の記憶は徐々に孤独そのものと混ざり合い、それは舞い散る枯葉の中にゆっくりと埋もれ消えていく。黄昏時の景色に全てが塗り潰されてしまう前に。ひっそりと抵抗し、死してなお生き続けようとする、夜の果ての朝へ祈りを届けようとする静穏な美しさがここにある。2015/11/14
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