内容説明
生涯に二十四冊の詩集とおびただしい小歌集、小説・評論・句集を遺した現代短歌の極北にそびえる歌人塚本邦雄。だが、『水葬物語』でデビューする以前の青年時代は謎に包まれていた。故郷の近江で暮した幼少期、戦時下の呉で短歌に目覚めた青年期、鮮烈なデビューを果す前の習作期―気鋭の小説家楠見朋彦が資料を博捜し、塚本邦雄の知られざる素顔に迫る。文庫オリジナル。
目次
ひるの夕顔なまぐさかりき―プロローグ
生れし家の門をくぐりぬ―生家の思い出
母となりたる姉と語らふ―少年時代
ガスマスクしかと握りて―戦中の記憶
碧澄む甕の秘色―家族の捷像1
万葉は我等一億の歌―家族の肖像2
ヒトラー忌の蓖麻の花―家族の肖像3
眠る間も歌は忘れず―五個荘と安土
母と展ぐる歌書のかずかず―家族の肖像4
今朔は母と肩寄せて眠る―家族の肖像5〔ほか〕
著者等紹介
楠見朋彦[クスミトモヒコ]
小説家。1972年大阪生まれ。1994年より塚本邦雄に師事。韻文定型詩の要諦を学ぶ。1999年、『零歳の詩人』(集英社)ですばる文学賞受賞。同作と『マルコ・ポーロと私』(集英社)、「小鳥の母」で芥川賞候補に選ばれる。平成12年度大阪市咲くやこの花賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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夜間飛行
52
呉の工廠で赤紙を待つ身を《魁けて殉ぜし人の返り血は尚冷え冷えと身に滴れり》《迫り来て機影玻璃戶をよぎるとき刺し違へ死なむ怒りあるなり》と詠んだ戦中の歌には、後に彼が心の奥底にしまい込んだ「我」がくっきりと見える。その呉から見た広島の原子雲と玉音放送。《敗れ果ててなほひたすらに生くる身のかなしみを刺す夕草雲雀》…ともかくも生きねばならぬ。「我」の短歌と訣別し、ランボーの詩の時空へと旅立つ事を決意した歌人の姿は夕光の中に立っている。何かを激しく憎む事で、今に至るまで戦後を照らし続けた塚本邦雄の青春と出会う本。2014/11/02
harass
37
歌人塚本邦雄に師事した著者が、地方紙に連載していた記事を加筆修正した本。本人があまり語ることのない、塚本のデビュー前を、資料などから構成。同人時代の習作や影響受けた歌人詩人の作品など。引用される短歌が多い。正直、高校をでてすぐに会社員になり、定年まで勤めた人なので実生活は平凡。さほど面白く思えず義務的にページをめくってしまった。よほどの塚本ファンなら読んでもいいかと。2016/04/15