内容説明
心の力をとりもどそう―。ものを調和させて一つの力を作り上げる能力、一点に全宇宙を集約させる象徴の能力、常に自分を高めていく尊敬の能力。この三つの力が、日本人が教養によって培ってきた日本の文化力である。文化力で今こそ心の力をとりもどしたい。古代から現代をつらぬく日本人の精神史を探求し続けてきた中西進が、すべての日本人に贈る珠玉のエッセイ第二集。
目次
第1章 営み(わたし―日本人らしい「私」が誤解されている;つとめ―義務や義理にしばられてしまった日本人;こども―自然な命の力を育てたい ほか)
第2章 自然(みず―水の力も美しさも忘れた現代人;あめ―雨は何を語りかけてきたか;かぜ―風を風として尊重した日本人 ほか)
第3章 生活(いける―花の本願を聞こう;かおり―人間、いいものを嗅ぎわけたい;おちゃ―茶道の中で忘れられた対話の精神 ほか)
著者等紹介
中西進[ナカニシススム]
奈良県立万葉文化館長。文学博士、文化功労者。日本文化、精神史の研究・評論活動で知られる。日本学士院賞、大佛次郎賞、読売文学賞、和辻哲郎文化賞、奈良テレビ放送文化賞ほか受賞。著書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ひよピパパ
6
『万葉集』研究の大家、中西進先生が綴るエッセイ集。身の回りの生活や自然の中で何気なく使われている言葉を手がかりに、先人たちが培ってきた日本の文化力とは何であるかを問い直してくれる一書だ。氏の言葉に対する眼差しは実に鋭い。もう読んでいて唸りっぱなし。本書では「あめ」の項が面白い。「お下がり」には正月に降る雨の意があること。そしてそれは天の神様が人間への贈り物であること。また「五月雨」は「さ乱れ」であり、古典の中で、人の心をかき乱すものとして、物語の設定に用いられていること。とても勉強になった。2020/05/20
廊下とんび
4
この本は教えているのではなく自分自身で考える糸口を教えてくれているような気がした。『忘れもの』まさに普段気づかないこと、思いもしなかったこと・・・それに気づく目線、眼差しが『日本人の忘れもの』なのだと思う。目線、眼差しを変えれば見えてくるものも違って来る、当然気配りの仕方も違って来るだろう。『忘れもの』となってしまった気配り=思いやりについて考えたい2015/01/09
れいまん
2
人間の価値観はまず感動するところにある。感動出来るから良いのだという判断を日本人の特質としたのが本居宣長だった。この心情は古代人がごくふつうに持っているもの。儒学の建前につぶされそうになっている日本人の心情。宣長の提言は今なお充分に考えなおされるに値する。 まさに日本人の忘れ物を奥深いところから考察していていちいちが感動する2021/07/26
はまい
1
男尊女卑は最近の話で、古代では夫婦同伴で晩餐会出席を 命じていた話など新鮮。2018/10/07
大猫熊
1
著者の言によると、ヨーロッふうな価値観によって忘れられた、日本のよさを検証しようといている(まごころ、84ページ)のだそうである。そして、日本人の遺失物係としての私の、先祖が本居宣長だと言ってはばからない。序に変えて、には、日本文化の力として、文化の能力つまり文化力という語も用いて、それは日本人がもっている教養の集合とする。さらに文化の力とは調和する力、象徴する力、尊敬する力を上げている。自然の章にある4篇がおもしろい。たび、については、そうだなとも、旅行はもっとちがっているんじゃないかとか思ってしまう。2012/04/21