出版社内容情報
【一市民の運動から始まった30年の活動が、まちを変容させた】
回収した古着のリサイクル率はなんと90%近くに達し(全国平均は34.1%)、いまや「古着を燃やさないまち」として有名な福島県いわき市。この変容を推し進めたのが、1990年創設の老舗NPOザ・ピープル。まだボランティアやNPOという言葉が世の中に定着するはるか以前から、ゴミの問題に対して市民としてなにかできないかという観点で活動を開始し、さまざまなセクターを巻き込み、30年以上をかけて、まちとそこで暮らす人の意識を変えたのです。
ザ・ピープルで2代目理事長として活躍し、ゴミ問題への取り組みだけでなく、青少年の育成からフードバンク、さらには震災からの復興・コミュニティ再生までに携わってきたのが、吉田恵美子さん。いわきというひとつの地域で、地域の課題に33年間向き合い、「住民主体のまちづくり」を推進してきた立役者です。
【地域に根を張るイノベーターが生み出した「地味だけどすごい解決策」】
吉田さんを語るうえで、ザ・ピープルとともに欠かせないのが、「ふくしまオーガニックコットンプロジェクト」。東日本大震災で、地震・津波という自然災害と、原発事故という人為的災害の両面に見舞われたいわきは、発災直後の混乱もさることながら、放射線への不安から発生した耕作放棄地、被災者と避難民との齟齬によるコミュニティの分断など、長期的な課題を抱えることになります。
分断を埋めようと奔走する吉田さんは、耕作放棄地でオーガニックコットンの栽培→製品化・ブランド化して販売という道にたどり着きます。この取り組みは、結果的に地域内外の人たちの交流の場になるという副産物を生み、コミュニティの再生へとつながっていきます。そして、コットン畑に通っていた新しい世代が地域のために立ち上がるなど、吉田さんの意志が受け継がれていっているのです。
【想いを次の世代につなぎたい】
上記の取り組みは、今見ると驚きは少なく、「地味」に見えるかもしれません。しかし、時は1990年。家父長制の意識の残る日本の「地域」、ボランティアやNPOへの理解もない「時代」(ボランティアがある程度認められるようになったのは阪神大震災後、NPOが日本である程度地位を認められるようになったのは2000年代)で、当初ひとりの専業主婦だった吉田さんが「気づいてしまった問題」に向き合い、多くの人の助けを得ながら、地域に、社会に向き合う姿には、思わず背筋が伸びます。積み重ねてきた33年の厚みが、小さな一歩の数々に説得力を生んでいます。
本書は、今、なにか違和感に気づいてしまった人、これからどうやって一歩を踏み出したらいいのか悩む人に対し、吉田さんの半生と、次世代へのメッセージを添えて届けるものです。
内容説明
福島県いわき市で古着リサイクル率約90%を実現し、震災後は耕作放棄地とコミュニティの両方をオーガニックコットンで再生。「地味だけどすごい解決策」を繰り出す実践者が、想いを語る。
目次
はじめに 社会の変化は、ひとりの市民から始まる
1 一人ひとりの「気づき」を社会につなぐ いわきはなぜ「古着を燃やさないまち」を実現できたのか?
2 一人ひとりの「葛藤」を尊重し、対話でつなぐ 震災、そしてその後の分断をいかに乗り越えたか
3 一人ひとりの「想い」を紡ぎ、仲間とともに変える 「復興後」の未来を、オーガニックコットンに見た理由
4 一人ひとりの「ビジョン」が受け継がれ、まちは変わる 地域課題に、終わりはない
5 一人ひとりの「私」から未来は変わる 自分自身の声を聞く
おわりに 後からやってくるあなたへ
著者等紹介
吉田恵美子[ヨシダエミコ]
特定非営利活動法人ザ・ピープル前理事長。いわきおてんとSUN企業組合前代表理事。一般社団法人ふくしまオーガニックコットンプロジェクト代表理事。福島県いわき市にて、地域のなかで「住民主体のまちづくり」の取り組みを33年間行っている。主たる活動は「古着を燃やさない社会づくり」と、東日本大震災後の地域課題と向き合うなかでスタートさせた「ふくしまオーガニックコットンプロジェクト」。1990年創設の「ザ・ピープル」に参画し、ごみ問題への関心から古着のリサイクル事業を市民活動で実践。2000年から理事長を務め、いわき市を「古着を燃やさないまち」へと変容させる立役者のひとりとなった。2024年11月、逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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